鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』55

エピローグ

 部屋に入ると、俺はそのままベッドへと向かって大の字で寝そべった。

 あっという間の一日だった。午前八時に会場入りして設営を初め、片づけが終わったのが午後六時半で、ホテルに着いたのが午後七時。この間、交代で何度か休憩を挟みはしたが、ほとんど休まず動いた。

 頑張った甲斐あって、うちのブースは体験会の行列が途切れることなく、アナログゲームフェスティバルは大成功のまま幕を閉じることができた。

 ブーブーと音を立ててスマホが震えた。

 イベントに参加したメンバー専用のLINEのグループトークだった。

『お疲れ様! 打ち上げどうします? こっちでやります? それとも帰ってから?』

 広報部の藤堂さんからだった。

『みんな疲れているんじゃない? 俺は飲む気まんまんだけどね!』

 商品開発部の山根課長からだ。山根課長はサイクリングで鍛えているため体力に余裕があるのだろう。

『僕は参加しますよ!』

 広報部の萩原は参加の意思が固いようだ。

 今回のイベントは一日仕事で、体力的にもキツイものだった。そのため、打ち上げをするかどうかは当日決めようということになっていた。

『村山さんも誘っていいですよね?』

 どうやら萩原の目的は村山さんのようである。

 それにしても本当に驚いた。当日、初めて顔を合わせた四人のイベントコンパニオンの中に、あの村山さんがいたのだ。あまりに驚き過ぎて俺の緊張も吹き飛んでしまった。まさか、こんな感じで再開することになるとは夢にも思わなかった。

 

 ブーブーと音を立てて、またスマホが震えた。今度は電話だった。

「LINE見た?」

 電話の主は岩井主任だった。

「見ました。みなさん、打ち上げしたいようですね」

「私たちは別行動しない?」

「みんなと飲まないんですか?」

「私とサシは嫌なの?」

「よろしくお願い致します!」

「素直でよろしい。じゃあ、断ろうか。みんなに見つかったら色々詮索されるからさ。ちょっと離れたところにしようか」

「当てはあるんですか?」

「渋谷にさ。よだれ鶏の美味しい店があるそうだよ。東京出張の話をしたら中島さんが教えてくたんだ。人気店だけど二人で行くならいい場所だって」

「中島さんですか……」

「何? 何かあるの?」

「いや、あの人、いたずら好きだから……」

「さっき店調べたけど、普通の中華料理だったよ? ゲテモノ出す店とかじゃなかったから大丈夫でしょ」

「場所はどこなんですか?」

「渋谷の道玄坂という所らしいよ」

「岩井主任、道玄坂に行ったことあります?」

「ないよ」

「そうですか。なら、行きましょう! 絶対、行きましょう!」

「何? なんか急にテンション上がっていない?」

「気のせいですよ」

「そう? まあ、いいか。じゃあ、三十分後にそっちへ行くから待っていて」

 

 この世界は理不尽で、不平等で、とにかくイカれている。

 それでも、俺はこの世界が好きだ。

 

(了)