鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』54

 ヒヤリと頬に冷たいものが当たる。顔を向けると冷たい物はコーラだった。 

「一息入れたら? リーダーが倒れたら、みんな困るでしょ?」

 コーラを差し出しているのは岩井主任だった。

「ありがとうございます!」

 俺は受け取って一気に飲んだ。

 炭酸が鼻を抜ける痛さで涙が出た。

「あれ? もしかして、みんなが手伝ってくれて泣いているの?」

「違いますよ。炭酸がきつくて」

 炭酸の抜ける痛みが引いても、俺の涙は止まらなかった。

  

 翌日も、誰一人文句も言わず、休日だというのにみんな出社して手伝ってくれた。おかげで日曜の夕方前には全て完成した。途中、新しいアイデアなども出てきたおかげで、俺が一人で考えていた物とは比べようがないほど面白いボードゲームが完成した。みんなでわいわい雑談しながら楽しく仕事をしたのは初めてで、俺だけでなく参加した全員にとって充実した二日間だった。

 西野さんが差し入れのシュークリームにかぶりついてクリームを横からこぼして笑われたり、出前で頼んだ大盛チャーハンが食べきれないと嘆く藤堂さんの残りを男たちで取り合って女性たちにドン引きされたりとか、職場とは思えないノリでみんなが楽しめた。

 鷲塚部長の提案で日曜の夜は、会社近くのファミレスで打ち上げが行われた。本当は居酒屋で派手に盛り上がりたかったのだが、車で来ている人が多かったので酒を飲まない打ち上げとなったのだ。

 全員が一丸となって何かを作るということは、日常的に仕事としてやってはいたが、このような形でお互いの顔を合わせてということは今までほとんどなかったので、みんながみんな、これを機会に一気に打ち解けられたようで、どのテーブルも、いつもの飲み会よりも盛り上がっていた。

「えー、では、もうそろそろお開きにしたいと思います。最後に主役の佐伯くんの挨拶で締めたいと思います。佐伯くん、こちらにどうぞ」

 鷲塚部長の促されるまま、俺はほぼ貸切状態のファミレスのど真ん中に立った。

「初めにも言わせていただきましたが、みなさん、ご協力ありがとうございました。私一人では締め切りまでに完成させることはできなかったと思います。今まで人に頼ることは甘えだと思っていましたが、それは間違いでした。一人でないからこそできること、協力しなければ見えないことがあることに、この歳になってようやく気が付けました。また明日からも、みなさんと一緒に働かせていただきますので、よろしくお願い致します!」

 深く頭を下げる俺に、みんなが拍手してくれた。

「おーい、佐伯。挨拶、真面目すぎるぞ! もっと柔軟にな!」

「悪くないんだけどさ。やっぱり硬いよね」

「ごめーん、聞き逃した。もう一回言って」

「斉藤課長、お酒飲みすぎですよ。また旦那さんに怒られますよ」

「えーだって、私、車置いていくんだから、いいの」

「ズルい! 今日は飲まないって話だったのに!」

「二次会行く?」

「行く!」

 

 結局、最後はグダグダになってしまったが、俺は彼らが好きだ。病気を理由に異動させらた総務部だったが、本当にいい仲間に恵まれた。これからも、この総務部で働けることを俺は誇りに思う。

 

 ありがとう! みんな大好きだ!

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』55へ続く