鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』53

 岩井主任が総務部を出てから三十分経った。すぐに帰ってこないところを見ると説得に時間がかかっているのだろう。

 俺は言われた通り、やるべきことを全てリストアップしていた。改めて書き出してみると、当初の予定より、やらなければないことが多く、時間が絶望的に足りないことに気付かされた。以前、作り上げたものをベースにしているとはいえ、商品開発部に開発依頼をしていないため、手元にあるものは、小学生の工作並みの駒とボードしかない。ルールは一応できていいるが、問題点を修正してから一度もテストプレイをしていないので、問題が解決されているのかも分からない状態だ。

「ただいま! みんな連れてきたよ」

 総務部のドアを開けた岩井主任の後ろから人がぞろぞろと入ってきた。総務部だけでなく他部署のメンバーもいた。

「えっ? みなさん、どうしたんですか?」

「手伝うために決まっているだろ? それよりなんで俺に相談しねーんだよ。水くせーな!」

 企画のアドバイスと最終チェックを担当する営業企画部の鷲塚部長も駆けつけてくれたようだ。

「岩井主任どうやってこんなに人を集めたんですか?」

「更衣室に残っている人ほとんどいなかったから、LINEで呼びかけたよ」

 あっ! そういえば会社のみんなでグループを作っていると言っていたな。なぜだか俺は未だに誘ってもらえないけど。 

「佐伯さん。どうして、私たちに声をかけてくれなかったんですか?」

「何を手伝います? 一応、必要そうなものは全部持ってきましたけど」

 広報部の紅一点である藤堂さんに、商品開発部の仁科さんだ。

「全部?」

「私は愛用のノートパソコンとペンタブを、由奈ちゃんも愛用のノートパソコン。大山課長は3Dプリンターを家から持ってきたようですよ」

 知らなかった大山課長は、会社にも置いていない3Dプリンターを自前で持っていたのか。商品開発ではなく総務部の人なのに。藤堂さんの言っているペンタブで何なのだ? 

「ペンタブ?」

「知らない? ペンタブレット。私と七海ちゃんは趣味でデザインと小説やってて結構有名なんだよ?」

「はいはい。時間がないんだから、雑談はそれまで! 商品開発部と藤堂さんは商品パッケージとか実物の方を、残りの広報部はパワポでプレゼン資料作っておいて。経理課はこっちに集まって。打ち合わせするから」

 経理課の斉藤課長が指揮を取ってくれた。相変わらず頼りになる。

「了解! 藤堂さんはデザインに回るから、他の広報部はこっちに集まって」

「商品開発部は、人事の大山課長と一緒にテストプレイ用のコンポーネントを作るから商品開発部の部屋に戻って3Dプリンター設置だ。佐伯くん、データを私のメールに送っておいてくれ」

「よし、俺は役員に出す前の最終チェックがメインなんで、それまではモニターテストにまわるわ」

「いいですね。総務は人が足りているようなので、私もそっちを手伝いますか。商品開発部にいた頃以来ですな」

「根津係長、商品開発部にいたんですか?」

「西野さん、知らなかったの? 根津さん、昔はテストプレイ潰しと言われるほど厳しい人だったんだよ? あんまり厳し過ぎて企画が何一つ通らないって有名だったんだから」

「えー! それ大丈夫なんですか?」

 それまで静かだった総務部の部屋が一気に、にぎやかになった。それぞれが得意な分野の作業を息の合った連携でつないでいく。

 総務部、広報部、商品開発部、そして一人しかきていないが営業企画部。4つの部門で活躍する人たちが勢ぞろいした。これほど心強いメンバーはいない。締め切りまで、なんとか間に合いそうだ。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』54へ続く