鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』51

 日本最大級のアナログゲームイベントであるアナログゲームフェスティバルは、企業、個人分け隔てなく新しいアナログゲームを発表できるイベントである。

 それまで主流だったテレビゲームのようなデジタルゲームから、昔ながらのボードと駒を使ったアナログゲームへと流行が変化したここ数年で、来場者の数もデジタルゲームのイベントに並ぶまでとなった一大イベントだ。

 うちのゲームも毎年出しており、いつもは広報部が仕切っていたのだが、今回は営業部が無理を言って取り仕切ることになったそうだ。何でも毎年、東京でイベントが開かれた後、広報部が打ち上げや観光などの慰労を受けていたのだが、それに対し営業部が文句を言い、広報部が降りたそうだ。大人げない話であり、本当に情けなくて呆れてしまう話だ。

 取り寄せた資料によると、今回のアナログゲームフェスティバルでは最近の流行を考慮して企業ブースを強化することになったそうだ。体験スペースを設け、テレビ局や専門誌の取材を積極的に受け入れ、目玉として、うちとライバル会社のハシレミストの新商品体験会という一騎打ちを用意したらしい。

 イベントに穴をあければ企業イメージを大きく損ねることは間違いなく、出品しないという選択肢はあり得なかった。代替案として、既存の商品を出して体験会を開くという選択肢も考えたのだが、事務局の担当者によると、すでに出品情報として俺のプロジェクトのゲーム名と内容が記載されており、すでに専門誌の記事で紹介されているので今からの変更は難しい。

 事務的な書類はすぐに書き上げたので、すぐにでも提出できるのだが、同時に提出することになっているネット公開用の動画や写真の資料はないため、今から作るとなると俺一人では確実に間に合わない。

 今日は第四金曜日、月に一回の営業部懇親会の日であり、営業部は全員午後から外勤扱いの直帰となっていた。今の時間は午後五時半。まだ就業時間のはずなのだが、今頃すでに飲み始めているはずだ。社長の鶴の一声を使ったとしても戦力になるとは思えない。総務部長の不動部長に相談したくても、今日から海外旅行で今頃飛行機の中である。

 俺は絶体絶命の状態に陥ってしまった。残業して土日も休日出勤したとしても、それでも間に合うとは思えない。圧倒的に時間が足りない。総務部のメンバーに相談することも考えたが、畑違いの彼らが戦力になるとは考えられない。

 俺は考えることをやめ、できることから手をつけることにした。

 フェスティバル事務局への提出期限は来週の木曜日だが、社外発表の許可を得なければならないため、それまでにゲームのパッケージ写真と価格、プレイ動画などを用意しなければならない。社外発表のための緊急会議の申請はすでに提出済みで、正式な日取りが決まるのは休み明けの月曜になると思われるが、俺の申請が通れば、役員の前での社内プレゼンは最短の水曜となる。それまでに手元にある企画書数枚と粘土で作った駒と手書きの紙製ボードを売り物レベルまで仕上げなくてはならない。

 タイムリミットは来週の水曜だが、俺の計算に間違いがなければ、完成予定日は一か月後だ。根性で何とかなるものではないが、何とかするしかない。昔の俺ならすぐに諦めていただろうが、病気になってからというもの、俺は諦めが悪くなったらしい。往生際が悪いと言ってもいいだろう。やってやろうじゃないか悪あがきを。世の中が俺を全否定しようが、拒絶ばかりで全く受け入れようとしなくとも、自分の道は自分で開く。病気だけでなく、全ての理不尽に俺は負けない。諦めてたまるものか。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』52へ続く