鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』50

 あれから二週間経った。北海道は異常気象らしく、まだまだ夏は始まったばかりだというのに、すでに真夏日を迎えていた。連日の暑さに俺は少し夏バテをしていたが、開けた窓から入ってくる心地よい風に包まれながら、窓から見える広い青空を横目に、ゆったりと流れる時間の中での仕事は気持ち良かった。

 病気の方は相変わらずで、症状が和らぐことはなかったが、天気も良い日が続いてくれたおかげで、体の調子は良かった。

 俺の濡れ衣は晴れたが、取り巻く環境は以前と何ら変わらず、未だに俺は総務部で浮いていた。

 任されたプロジェクトの方は総務の仕事の空き時間に少しづつ手をつけていたが、あまり進んでいないかった。問題点はすでに解決していたのだが、営業部が別のプロジェクトを立ち上げたため、実質的に俺のプロジェクトはお蔵入りとなった

「佐伯さん、アナログゲームフェスティバル事務局からお電話です」

 一本の電話が俺の平和をぶち壊してくれた。 

 アナログゲームフェスティバル事務局の担当者によれば、俺の会社も出店することになっており、参加費用はすでに入金されているが、締め切りを過ぎた今現在も必要な書類が届いていないそうだ。

 要領を得ないので、電話は折り返すことにして、社内で聞き込みを始めると、呆れる事実が判明した。

「あれ? 佐伯先輩、営業部会議での話、聞いていなかったんですか?」 

「営業部会議? 俺、呼ばれていなんだけど」

「ああ、そうか。佐伯さん総務部の人だから、呼び忘れたんですね」

 会社において足の引っ張り合いはよくある。特に営業成績が物を言う営業部において営業成績は存在意義そのものであり、大きなプロジェクトを任せられることは、出世の近道である。その近道をあろうことか、営業部の人間ではなく、総務部の人間が歩んでいるのだ。気にくわないのは至極当然である。

「若林! お前、わざとだろ!」

「嫌だな、佐伯先輩。そんなわけないじゃないですか。それよりいいんですか? こんなところで油売っていて。確か、締め切り来週までですよね。時間ないんじゃないんですか? 間に合わないと、流石に先輩でもクビになるんじゃないですか?」

「もういい! 提出しなければならない資料をよこせ!」

「ああ、あれですか。どっか、いっちゃいました」

 会社の威信がかかった一大プロジェクト。正確に言えば、元一大プロジェクトだが、それを潰してまで、営業部は俺の足を引っ張るつもりのようだ。余程、俺の存在が目障りなのだろう。

  いいだろう。売られた喧嘩、買ってやろうじゃないか。お蔵入りになりかけている俺のプロジェクトを発表して、営業部のやつに一泡吹かせてやる。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』51へ続く