鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』46

 ショックだった。

  鈴原さんとは自然消滅したとはいえ、病気で落ち込んでいたときに励ましてくれたことは今でも感謝している。あのとき、優しい声をかけてくれなければ、今頃、俺は……。

「私ね。鈴原さんのこと嫌いなんだ」

「どうしてですか?」

「鈴原さんがいなければ……」

「鈴原さんがいなければ?」

 俺の問いかけに岩井主任は何も答えずに下を向いて黙ってしまった。岩主任と鈴原さんの間に何かあったのだろうか?

「ごめん。私、帰るわ。ちゃんと鍵かけてよ? もちろんセキュリティーカードも」

 そう言って、岩井主任は総務部を出ようとした。

「セキュリティーカード!」

「ビックリした。いきなり大きな声出さないでよ」

 岩井主任は総務部の入り口で驚き立ちすくんでいる。

 どうして鈴原さんは俺に近づいてきた? 初めてLINEしたとき、俺が残業していることやセキュリティ―カードを持っていることをなぜ聞いた? 俺から去った理由は? もしかして、俺は彼女に利用されただけではないか?

「岩井主任。鈴原さんが今まで旅行に行った場所と日付覚えています?」

「覚えてないけど、どうして?」

「そうですよね」

 俺は肩を落としてうなだれた。やっと糸口を見つけたと思ったのに……。

「あー、もしかしたら、カレンダーに書いてるかも」

 そういって岩井主任は総務部の入り口から戻り、鈴原さんの席へ向かった。鈴原さんの机に上がっていた卓上カレンダーを手に取ると、そのまま黙ってめくり始めた。

「うん。やっぱりあった。あっ、行先も書いてある」

 全てが繋がった。

「岩井主任。古い出張旅費精算書はここにありますか?」

「うーん、どうだろう? 先月分までしかないかな? しまうのが遅ければ残っているけど。ちょっと待ってね」

 

 岩井主任が持ってきた過去二か月分の出張旅費精算書から後藤課長のものを抜き出し、鈴原さんのカレンダーと照らし合わせる。

「やっぱりだ」

「これってどういうこと? ただの偶然ではないよね?」

 思った通りだった。鈴原さんは月に二回ほど有休を取っている。その内一回は、道内旅行であり、どれも行先が後藤課長の出張先だ。

「偶然とは思えないですね」

「もしかして不倫旅行?」

「いえ、この前の帯広出張のときは、後藤課長は札幌にいました。考えられるのは替え玉です。さっき話していたゴーストライターみたいなものです」

「ごめん。ちょっと話が飛び過ぎていて、よく分かんないんだけど」 

「俺の仮説はこうです。まず後藤課長が……」

 俺は自分が立てた仮説を岩井主任に全部説明した。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』47へ続く