鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』44

 若林のプロジェクトが暗礁に乗り上げた。商品開発部が本格的に動き出してから重大な欠陥が見つかったのだ。

 情報漏洩事件が発生してからというもの、うちの会社では商品開発が始まる前に社外へ大々的に発表することが増えていた。若林のプロジェクトもアナログゲーム専門誌だけでなく、流行ものを紹介している雑誌でも紹介されていたので、開発中止になったとは簡単に言えない状態だった。

 俺の会社の商品開発部は会社の規模を考えると小さいにも関わらず、同時並行して複数の商品開発も行っているため、始まったばかりのプロジェクトの商品を一から見直す時間はなかった。

 このプロジェクトをよく理解しているのは提案者の若林ということになっているが、実際は俺だ。営業部全員から責任を追及された若林は、コンセプトも含め何一つまともに説明できず、全てを営業部で話した。事態を重く見た営業部は社長に報告し、役員全員が出席する緊急会議が開かれることとなった。

 会議には俺も呼ばれた。プロジェクトの主導権が若林から俺へと移されたことで、総務部に所属しながら、俺は営業部のメンバーに指示出すことが許されることとなった。

 しかし、営業部のメンバーは他の仕事が忙しいと言って、誰一人俺を手伝ってくれなかった。総務部のメンバーに声をかけることも考えたが、畑違いであることを考え諦めた。結局、俺は一人でプロジェクトを進めることになった。また、俺は独りだ。

 金曜午後六時。いつもは残業する人たちも金曜の夜は定時で上がる。二時間後の午後八時。腹が空いた俺はロッカーに常備していたカップラーメンを持って給湯室へ向かった。向かう途中、社内に残っている人がいるかを確認したが、どの部署も明かりが消えていた。社内で残っているのは、総務部の俺だけだった。

 カップラーメンが出来上がるまで三分。俺は椅子の背もたれによしかかりながら、考えごとをしていた。

 最近、体の痛みが治まったが、なぜだろうか。痛みに慣れたということはあるだろうし、季節も冬から夏へと温かくなったこともある。血の流れがよくなったのは間違いないが、それだけでここまでよくなるのだろうか。パーキンソン病の専門薬を飲んでいるわけでもないのに、症状が治まっていることを考えると、俺の取っている行動のどれかが病気の原因であるドーパミン不足を補っているのだろう。それは何だ? 何が俺の病気の進行を止めているんだ?

「お疲れ様」

 俺は飛び上がって驚いた。誰もいないはずの社内で挨拶されたからだ。恐る恐る振り返ると、そこには私服姿の岩井主任が立っていた。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』45へ続く