鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』42

「佐伯先輩。ちょっと時間ありますか?」

 倉庫で一時間ほど時間を潰して戻ると、誰かが俺を呼び留めた。振り向くと営業部の若林だった。

「どうした?」

「新しいプロジェクトを任されたのですが、アイデアが浮かばなくて……」

 若林の話を聞くまでもなく、『面倒くさいことは部下に丸投げ』事案が発生したのは明白だった。

 会社の裏切り者として無視されている俺を頼ってくたことが素直に嬉しく、俺は若林の相談に乗ってやることにした。若林は要領がいいやつで、いつも俺がトイレなどで総務部から出てくると、狙いすましたように声をかけてきては相談を持ち掛けてきた。総務の仕事が忙しく、あまりそちらに時間が取れないため、俺は家に帰ってからもアイデアを考えた。

 当初は、かわいい後輩を助けるために相談を受けていたのだが、ある日、若林から提案があった。このプロジェクトが本格的に動きだすときに、俺の名前も出すので共同企画者として手伝ってほしいと。俺にとっては営業部に戻れるまたとないチャンスだった。それからというもの俺は土日も若林の家に資料を持ち寄っては夕方まで打ち合わせをするようになった。残業をした日も睡眠時間を削ってアイデアを考え、資料をまとめた。

 二か月ほどでプロジェクトの大枠が固まったが、肝心の商品に気になる点がいくつか残っていたので、商品開発部へ開発依頼をする前にもう少し検討する余地は残っていた。本格的に社内で動くのは、もう少し詰めてからだろうと俺は考えていた。

 

 寝耳に水とは、まさにこのことだろう。

 一週間後の下期の予算会議で若林のプロジェクトが発表されたのだ。プロジェクトの起案者には俺の名前がなく、全て若林一人で考えたことになっていた。課長職以上のみ参加の予算会議に、平社員の俺が参加できるわけもなく、俺がそのことを知ったのは掲示板にプロジェクトの概要とメンバーの名前が発表されたときだった。

 俺は営業部へ走り、若林に詰め寄った。約束が違う。俺の名前がない。それにあのプロジェクトに欠陥があって、本格的に動くにはまだ早い。俺は思いついたことを片っ端から若林にぶつけた。

 若林は一言呟いた。

「いい加減、気づいたらどうですか? 先輩はもう表舞台に出れないんですよ。裏切りものなんですから」

「若林、お前!」

 俺は頭に来て若林の胸倉をつかむ。

「やめろ!」

 俺を止めたのは、たまたま営業部で打ち合わせしていた総務部の不動部長だった。

「話は俺が聞く。今すぐ、俺の部屋に来い!」

 大声で吠えた不動部長は打ち合わせを切り上げて営業部を出て行った。

「ああ、怖い。怖い。裏切り者は何をするか分からないですね」

 へらへらと笑いながら嫌味を言っている若林を睨みつけると、俺も営業部のドアをぶち破るようにして出た。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』43へと続く