鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』41

 休みが明けた月曜日。出社すると俺の机に懐かしいクッキーが置いてあった。口の中に入れるとホロホロと崩れ落ち、鼻腔を抜けるバターの香りと濃厚なミルクの風味が美味しい函館土産で有名なクッキーだ。小さい頃はお土産でもらうと喜んで食べたものだ。

「懐かしい!」

「ありがとう!」

「函館行ってきたんだ」

「函館と言えば、イカじゃない?」

「イカといえば、いかめしですよね」

「確か、森だっけ?」

「森? 海じゃなくて?」

「地名が『森』なのよ」

「でも、どうして森なの?」

「知らないわよ!」

 朝から総務部では函館の話で盛り上がっていた。

 お土産は、金曜に有休を取って函館旅行へ行っていた鈴原さんからだった。函館旅行と言っても、メインは隣の北斗市だったそうで、机の上には北海道北斗市公認のゆるキャラが他の町のゆるキャラたちと一緒に並べられていた。

 朝から明るかった総務部だったが、急な打ち合わせで鈴原さんが総務部を出て行くと空気が一変した。

「あの子さ。毎月旅行に行ってない? いくら道内で近場とはいえ、ちょっと多くない?」

「去年は有休を完全消化したそうですよ」

「やっぱり? なんかいつもホワイトボードに有休貼っているから、多いと思ったんだよね」

「私だって休みたいけど、スケジュール考えると三連休は無理か」

  鈴原さんが席を離れると、総務部の女性たちがこぞって鈴原さんに対する愚痴を言い始めた。

 鈴原さんとは、色々あって今でこそ付き合いないが、一度は好きになった人だ。黙って悪口を聞くのは俺も辛かったので、倉庫へ書類を探すふりをして総務部を出ることにした。

 廊下を歩きだしてすぐに営業部に用があることを思い出した。今日中に営業部の人たちに確認しなければならないことがあったのだ。そのまま営業部へ向かい、誰が社内にいるのかホワイトボードを確認すると、真犯人と疑わしき後藤課長は先週の金曜から日曜まで函館出張であり、今日は代休で休むと書かれていた。

 俺は後藤課長が新商品の情報を漏らした真犯人だと思っているが、彼のアリバイは完璧だった。彼は文句一つ言わず毎週のように出張しているただの仕事熱心な男なのだろう。ハシレミストの女はもしかしたら本当にただの不倫相手なのかもしれない。

 先週は函館か。函館といったらイカだな。海の幸だ。そう言えば、鈴原さんも先週は函館に行ったんだよな。もしかしたら、俺と同じように偶然、函館で後藤課長と会っていたりしてな。そう考えながら、俺は時間を潰すため、用もないのに倉庫へと向かった。 

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』42へ続く