鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』39

「ダメだ。こんなんでそいつが認める訳ないだろ? それにだ。疑われているお前が撮った写真なんて何の証拠にもならん」

「じゃあ、どうすればいいんですか!?」

 総務部長室に不動部長と俺の声が響ていた。俺が持ち込んだ雑誌とこの前撮った写真を不動部長に見せたのだが、証拠能力不十分として却下されてしまった。

「知らん。自分のことは自分で考えろ」

「自分でって。そんなの無責任じゃないですか! どうして会社は、真犯人探しをしてくれないんですか!」

「いいか、よく聞け。会社は利益を生むために存在するんであって、お前の信用を回復するためにあるわけじゃないんだ」

「分かりました。他の方法を考えます!」

 俺は捨て台詞を吐いて総務部長室を出た。

 確かに、この写真一枚では証拠としては弱い。後藤課長が「私もハメられた」と一言言えば、すぐに消えてしまう証拠だ。実際にデータを渡している証拠か、本人の自白がなければ、立証は難しい。

 他に何か証拠になるものはないか? 俺はあの日の後藤課長の足取りを追うため、出張旅費精算書のファイルを書庫から引っ張り出して調べ始めた。

 あの日、後藤課長は朝から帯広入りして新規取引先開拓のための訪問をした後、喫茶店で面接をしている。面接は夜の七時過ぎとのことから、その日はビジネスホテルで一泊したそうだ。

 ビジネスホテルの領収書には日付しか記載されていないのでチェックインの時間は分からなかったが、ファミレスを出た時間はレシートから午後八時半だと分かった。面接が数分で終わったとしても、帯広は札幌からJRで約三時間かかるため、午後五時半には札幌を出なくてはならない。

 しかし、俺が後藤課長と会った午後六時半なので、どんなに急いでも物理的に不可能な時間だ。ファミレスのレシートはレジスターが印字したものなので、レジスターの時間が狂っていた可能性もあるが、翌日、急遽訪問することになった相手先用に買った菓子折りのレシートに印字された時刻は午後五時。この後、すぐに札幌に向かっても到着は午後八時。これでは、俺が会った午後六時半には間に合わない。 

 手書きの領収書と違い、時刻が印字されたレシートなので、その時間その場にいたという、これ以上ないアリバイだ。

「はぁー、ダメだ。調べれば調べるほど遠ざかる……」

「何が?」

 ため息交じりの俺の独り言に、岩井主任が問いかけてきた。

「いつからそこに?」

「ん? 部長室から出てきたあたりから」

「えっ? それって結構前ですよね?」

「そうだね。昼休みなのに忙しそうだから、何やっているのかなと思ってさ」

「声もかけずにずっと見ていたと?」

「いや、何か必死だったから声かけづらくてね」

「……」

「で? 何を調べていたの?」

 岩井主任はなぜ俺に構うのだろうか? 信頼関係のある不動部長ならいざ知らず、あまり親しくない俺に興味を持つなんてあり得ない。もしかしたら、彼女が真犯人で俺が真犯人を探していることに気付いたのでは?

「いえ、何でもありません。お気になさらず」

 俺は机に広げた書類をファイルに戻して、何を調べていたのか分からないよう背表紙を岩井主任に見せないように書庫へと戻した。 

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』40へ続く