鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』38

 翌日の昼。俺はまだ領収書のチェックをしていた。結局、あの後、さらに二時間残業したが終わらず、昼になってもまだ続けていたのだ。

 昼飯を食べる時間を惜しみ、昼食代わりにと買った一日に必要な栄養が取れると謳われているゼリー飲料を飲むため、引き出しを開けた。コンビニ袋を持ち上げると、引き出しに入っていた何かに引っかかったようで、いくら引っ張っても出てこなかった。苛立ちから力任せに引っ張ると、袋が勢いよく上がり、ゼリー飲料と共に買っていたビジネス雑誌が宙を舞った。

 俺は大きく溜息をつくと、床に散らばったゼリー飲料と雑誌を拾い上げるため席を立つ。床で開かれた雑誌には、ライバル企業のハシレミストの新商品発表会の記事が見開き二面で紹介されていた。もちろん俺はこの記事を読むためにこの雑誌を買ったのだ。この新商品こそが俺に濡れ衣を着せた原因である。

 家に帰って読む予定だったが、どうにも気になってしまい時間もないのに読んでしまった。本来ならうちの新商品として発表されるはずのものが大きな写真と細かな図解付きで説明されていた。ページをめくると開発者のインタビューとして眼鏡をかけた女の写真が載っていた。美人だが、どこか悪人面のいけ好かない顔。初めて見たとは思えない顔に、俺は誰か有名人に似ているのかと考え出し、驚いた。

 このハシレミストの商品開発部の女は、以前、後藤課長が喫茶店で会っていた女だ。

 どういうことだ? なぜ、後藤課長がライバル企業の女と会っていたのだ?

「何読んでいるの?」

 後ろから岩井主任が声をかけてきた。

「いえ、別に」

 俺は慌てて雑誌を閉じると引き出しに締まった。

「怪しい。エッチなものでしょう? やめてよね。会社でそういうの読むの」

「ち、違いますよ! そういうのじゃないです」

「なら、いいけど」

 立ち去る岩井主任は、何故かご機嫌だった。その態度の理由を気にはなったものの、今はそれどころではない。もし後藤課長の会っていた女が、このハシレミストの女で間違いないのであれば、真犯人は後藤課長の可能性が高い。

 どうすれば、あのとき会っていた女だと証明できるのだろうか? 

「そういえばさ。あの女優、不倫の現場を撮られたんだって、ホント馬鹿だよね」

「えっ? 誰ですか? また不倫ですか?」

 経理課の室井さんと城之内さんの雑談が聞こえてきた。

 不倫? あっ! 俺は思い出した。後藤課長とあの女が不倫していると思い、弱みを握るために盗撮していたことを。慌ててスマホのアルバムを確認すると、後藤課長と一緒に写真に映っていたのは、やはりハシレミストの女だった。

 これで俺の濡れ衣は晴れる。俺は雑誌とスマホを持って、不動部長のいる部長室へと向かった。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』39 へと続く