鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』34

「おはようございます。俺は少し前に札幌駅に着いたので、その辺をぶらぶらしています。今から待ち合わせ場所へ向かうので、先に着いたら待っていてください」

 俺は電話をしながら早足で札幌駅に戻った。電話では何事もなかったように装えたが、先程見た光景は衝撃過ぎて、頭の中がパニックになっていた。彼氏がいるかどうかは聞いていなかったが、どう考えてもあれは彼氏にしか見えない。冴えない俺と比べても彼女と釣り合うのは、あの高そうなスポーツカーに乗った男の方だ。もしかして俺は遊ばれているのか。

「お待たせ。結局、佐伯さんの方が先に着いたんですね」

 下を向いて考えこんでいた俺の目に茶色い長ブーツが入った。そのまま視線を上げると、生足、黒いレザーのホットパンツ、真っ赤なニットのセーターと冬場の服装としては少し寒そうな格好だった。

「今、着いたばかりですよ。早く付き過ぎたかなと思っていたけど、ちょうど良かったみたいですね」

「私たち気が合いますね」

 普段の俺なら、この言葉だけで舞い上がるだろうが、今の俺は冷静だ。彼女は俺で遊んでいるのだろうか。遊ぶだけならまだしも、もしかしたら金づると思っているのではないだろうか。今思えば、元日に寄った店は全て男性向けの専門店だった。彼女はあそこに俺を案内し、商品を買わせることで店から報酬を貰うのではないだろうか。そう考えると、全てつじつまが合う。

「そうですね。気が合うのかもしれませんね。そういえば、この前、聞くのを忘れたんですが、村山さんって、彼氏いるんですか?」

 直球過ぎると思ったが、先程のあれを見た後だ。俺は彼女の嘘を暴かねばならない。

「彼氏ですか? いませんよ」

 この女、俺が何も知らないと思って平気で嘘をつきやがったな。

「真っ赤なスポーツカーに乗って、大丸前まで送ってくれた男性は彼氏じゃないんですか?」

「ああっ。見ていたんですね」

「はい。全部見ていました」

「やだ、佐伯さん。勘違いしていますよ」

「キスまでしていたのに、まさか弟ですとか言いませんよね?」

「あれは、ただのセフレですよ。彼氏でなく、友達の一人です。彼氏がいたら、今頃彼氏とデートしていますよ」

 トイレの花子さん、口裂け女、人面犬、メリーさん、テケテケ、数ある都市伝説の中で最もありそうでなかった伝説の存在、それがセフレだ。セックスだけの関係の友達、セックスフレンドの略で、男なら一度は夢見る幻の存在である。

「セフレですか……」

「佐伯さんって、そういうのダメな人ですか?」

「いえ、そういうわけではないですが……」

 ショックだった。これから付き合おうと思った人が、遊び感覚で肉体関係を持つ人だったことが。

「映画見ませんか?」

「ええ、いいですね」

 その日、俺は上の空でデートをした。映画を見て、ゲームセンターで遊び、お昼はオムライスの専門店でオムライスを食べた。引きつった作り笑顔で食べたオムライスの味なんて何一つ覚えていない状態のまま、ウィンドショッピングをして、夕食は村山さんの希望で熟成肉のお店に行った。なぜだかカラオケの話になって、カラオケに行って、村山さんに腕を引っ張られながら歩いていたら、いつの間にか、ススキノのラブホの前に立っていた。ほろ酔い状態の村山さんの火照ってやや赤くなった頬と唇は、昼間見みたときよりも、魅力的で俺は考えるのをやめた。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』35 へ続く