鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』28

 住宅街にひっそりたたずむ真っ白な古民家カフェで軽い朝食を取りながら談笑し、昼は中華料理でお腹を満たすと、俺たちは札幌駅へと戻ってきた。

 戻ってきたのは、家に帰るためでも、元日から遊ぶためでもない。俺の服を買うためだ。雑談の中で、俺は今年から生まれ変わると話したのだが、それに対し、村山さんから服装を変えましょうと提案を受け、彼女が色々アドバイスしてくれることになったのだ。

 元日営業している店は少なかったのだが、彼女はファッションに詳しいらしく、男の俺も知らないメンズファションの店を知っており色々案内してくれた。

 ネクタイはたくさん持っていたので、その他のものを買うことになり、今まで身に着けていなかったタイバーとカフリンクスを買うことになった。

 最初の店はあまり気に入ったものがなく、二件目で気にいったタイバーを手に取ると、一緒に展示されていた箱についていた値段を見て驚いた。ネクタイを挟むだけの細い金属の板であるタイバーが数千円もするのだ。俺は買うことを諦めたのだが、村山さんから強引にお年玉プレゼントということで、約八千円もする一流メーカーのタイバーを貰うことになった。その勢いに負けて、そのまま数件ハシゴしてカフリンクスも十数点、合計で二万円ちょっと買ってしまった。

 俺がスーツ以外の服でこんなにお金を使ったのは初めてだったし、女性からタイバーという毎日身につけるアクセサリーを貰うのも生まれて始めてだった。今まで彼女ができても数か月しか続かず、プレゼントなんて貰ったことなんて一度もなかった。そんな俺が美女からアクセサリーを貰ったのだ。嬉しくないわけがない。そして、これほど男として誇らしいことはない。俺はクールを装っていたが、内心、浮かれまくって、心の中でガッツポーズを取っていた。

 

 タイバーとカフリンクスが納められた小箱がたくさん入った紙袋を両手にぶら下げて、札幌駅で村山さんと別れた。別れの挨拶で手を振る村山さんは、本当に天使のようだった。俺は帰りの電車に乗るとすぐにお礼のLINEを送った。そして、すぐに返事が来て、来週も会う約束を取り付けることができた。

 昨日までは死ぬことばかり考えていた俺が、今は来週が楽しみで仕方がないのだ。人生、本当に何が起きるのか分からないものだ。今日は、今まで抱えてきた不安や愚痴を全部、村山さんに聞いて貰えて本当にスッキリした。良くも悪くも俺がどういう人間なのか伝えることができて、その上でまた会ってくれるというのだから期待していいだろう。彼女は本当にいい人だ。

 ――あれ? 俺がどういう人間なのかは話せたが、彼女がどういう人なのか全く知らないな? そういえば、俺ばっかり話していて、彼女のことは何も聞かなかった。知っているのは年下で、桑園に住んでいて、イベントコンパニオンをやっていることだけだ。

 村山さんがあまりに美人で俺も浮かれてしまったのだろう。来週会うときは気をつけよう。そう考えながらも、俺は来週のデートコースを考え始めていた。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』29へ続く