鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』27

「はい。喜んで!」

 俺は満面の笑みで答えた。

「一人では行きづらい場所なんで助かります」

 一人では行きづらい? それは、もしかして、ホテルに誘っているのか? 今の若い女の子はそういう誘い方なのか?

「年末に友達から聞いたラーメン屋さんなんですが」

 えっ? ラーメン? 

「誰か付き合ってもらわないと、一人では恥ずかしくて」

 ん? 付き合うって、そっちの付き合うなの?

「良かった。佐伯さんが一緒で」

 思っていたものとは違うけど、まあこれも悪くない。

「ちなみに、どこのラーメン?」

「ここです!」

 村山さんが俺に見せたスマホの画面には口コミサイトが映っていた。札幌の外れ、ラーメン激戦区と言われている北区にある有名店で、平日でも遠くから訪れる客で行列が絶えないことで話題の店だ。一番人気の塩らぁめんは鶏の旨みが溶け込んだ黄色くとろみのついた濃厚スープが特徴の絶品である。

「ああ、あそこか。鶏白湯では、ミシュランに載った白石区のラーメン屋と並ぶ美味さだけど、取材を断っているのか最近メディアで見ないよね」

「凄い! 友達と同じこと言っている!」 

「ちょっと待って」

 俺はスマホで、元日も営業をしているかを調べる。思った通り、この店に限らず、どこのラーメン屋も年末年始は営業していない。

「年末年始はどこのラーメン屋も営業していないようだよ?」

「えー!? そうなの。お昼どうしよう?」

「中華好き?」

「うん。エビチリとか好き」

「この近くに、フカヒレが安く食べられることで有名な中華のお店があるんだけど、どうかな? エビチリもあるし、元日の今日も営業しているようだよ」

 俺はスマホに表示したお店のホームページのメニューを村山さんに見せた。

「これ美味しそう。ここがいい! ここからどれぐらい歩きます?」

「歩いて十分ぐらいかな? でも、まだオープンしていないと思うよ」

「待ちます!」

「時間あるの?」

「丸一日大丈夫ですよ」

「オープンが十一時だから、それまでこの辺を散策でもして時間つぶそうか?」

「いいですね! でも、まだ時間も早いし、年始はどこも休みなんじゃないですか?」

「ええっと、ちょっと待ててね。確かこの辺に……」

 俺はスマホで周辺の情報を検索し始めた。

「確か……あった! ここは元旦営業しているようだよ」

 俺はスマホに表示された喫茶店の写真を見せる。

「じゃあ、まずはそこに行きましょう!」

 そう言って、村山さんは元気よく右手を突き上げた。

「ゴー! ゴー! 早く早く、ほらほら置いてっちゃうぞ!」

 目的地の住所も知らないのに迷わず先を歩く村山さんを見て、俺は少しだけ元気をもらえたような気がした。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』28 へ続く