鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』26

 下へと降りるためにエレベーターに乗ると、彼女が俺より少し背が高いことに気がついた。彼女が履いている薄茶色のムートンブーツは靴底が薄く、身長を底上げしていたわけではなかった。美人でスタイルも良く、俺が並んで歩く光景はまさに美女と野獣そのものであった。

 すれ違う男の目が彼女に集まっているのは明らかで、隣で歩く俺はとても誇らしかった。彼氏でもないのに、つい彼氏面してしまうほどに。そんな状態で歩きながら地下鉄札幌駅までの道中で、初めてお互いの自己紹介をした。

 彼女の名は、村山玲奈。アラサーだと言っていたが年齢はまだ二十八歳で、職業はイベントコンパニオンだった。身長173センチと長身であることがコンプレックスで、他の女の子と一緒に写真に写るときは、胸を強調するふりをして腰を曲げて長身をごまかしていると明るく話してくれた。再現するために、ダウンの前を開けてポーズを取ってくれたときは、ニット越しのふくらみから一目瞭然である巨乳を俺は直視できなかった。村山さんは見られることに慣れた仕事だから抵抗はないのだろうが、高校生のとき以来、女と付き合っていない俺にとっては、目のやり場に困る代物ものだった。

 地下鉄に乗っても村山さんとの楽しい会話は途切れることなく、地下鉄南北線の大通り駅で東西線に乗り換えて円山公園駅で降り、徒歩で十五分ほど歩いて北海道神宮に着くまで続いた。

 北海道神宮は早朝だと言うのに、地面が見えないほどの人でにぎわっていた。北海道は先住民族であるアイヌの人から土地を奪って開拓された土地だ。北海道神宮は北海道開拓後に建てた神社なので、本州にある有名な神社とは違い歴史も信仰も浅く薄いのが実情である。それでもこうやって多くの人が集まってくるのを見れば、霊験も多少はあるのかもしれない。

 俺は日本人であるが神道も仏教も信じていない。 それでも、賽銭箱の前で美女と並んでお参りできるというこの現実には、「神様ありがとう!」と心の中でお礼を言ったものだ。

「佐伯さんは、何をお願いしたの? 病気が治ること?」

 村山さんの問いかけに、浮かれていた俺の心も現実に戻されてしまった。

 たまに物を落とすことと、気持ち足が上がらないことしか症状がないため、うっかり忘れてしまうのだが、俺はこれでも病人。女で浮かれている時間はないのだ。

「君と、もう少しいられるようにとお願いしたよ」

 計算とかではなく無意識だったのだが、歯の浮くようなセリフが俺の口からスラスラと出てきた。言った後で少し冷静になり、自分がドン引きされるような発言をしたことに後悔をしながら、上半身に冷や汗をかいていることに気がついた。

「えー? 何それ。面白い」

 村山さんは笑顔のまま、表情一つ変えなかった。ドン引きして笑顔が引きつるのではと心配したが、仕事柄、慣れているのかもしれない。

「この後、どうします?」

「佐伯さん、私に付き合ってくれます?」  

 私に付き合う? 私と付き合うの言い間違いか? 細かいことはどうでもいい。とにかく彼氏彼女の関係ですね。イヤッホー! 俺の人生バラ色だ!

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』27へ続く