鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』24

 一月一日朝六時半。昨日、クソみたいな人生を一変させようと誓った俺が最初に取った行動が初日の出を見ることだった。俺は生まれてこの方、一度も初日の出というイベントをやったことがなく、これが正真正銘初めてだった。そんな人生で初めての初日の出を見るために、俺は『JRタワー展望室T38(タワー・スリーエイト)』に来ていた。

 札幌駅直結で今や札幌の顔ともいえるJRタワー。札幌の中心といえば、昔は大通り公園や狸小路だったが、JRタワーや隣接するショッピングモール『ステラプレイス』が出来てからというもの人の流れが劇的に変わった。最新のファッションもグルメも、家電もホビーも何でもかんでも札幌駅周辺でそろうようになった。今やここが札幌の中心である。

 昔は札幌で夜景と言えば、藻岩山一択だったが、今はノルベサの観覧車と、このJRタワーがある。ラブホまでのルートを考えればノルベサの観覧車しか考えられないのだが、俺も今年で三十五歳。観覧車に乗るには少しハードルが高い。おのずと選ぶことになるのがJRタワー展望室T38なのだ。最上階である38階の展望室から見下ろす地上百六十メートルのパノラマは、まだ日が昇ってはいないとはいえ、少し白んでいる空と足元に広がる無数のビル群を見ると、昨日あれほど悩んでいたことがちっぽけに思えるほど爽快だった。

 来た時間が遅かったせいで、最もいいポジションは取れなかったが、それでも満足できるポジションは取れた。今日の日の出時刻は七時十分。スマホで時間を確認すると、日が昇るまで後四十分ほど時間があった。

「日の出まで後どれぐらいなんですか?」

 いきなり話しかけられて俺は驚いた。いつの間にか、俺の隣に女性が立っていたのだ。

「えーっとですね。日の出が七時十分ですから、後四十分でしょうか」

「あっ、結構時間ありますね」

 黒く長い髪の女性はそう言うと、まだ薄暗い札幌の景色を眺め出した。

 俺は彼女の後ろから、窓枠を額縁に見立てて、彼女を眺める。朝焼けでオレンジ色に染まる空と吸い込まれるように艶があり美しい髪が印象的な女の後ろ姿はまさに芸術作品であった。黒いダウンジャケットの下からすらりと伸びるスキニージーンズの脚は細く、触れれば折れそうなほど華奢に見えた。

「そうだ。まだ時間もありますし、少しお話ししませんか?」

 彼女は振り返ると、意外な提案に俺にしてきた。俺は驚きながらも、日の出までの数十分間、彼女と世間話をすることにした。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』25へ続く