鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』23

 パソコンを立ち上げてマウスでインターネットのアイコンをクリックする。いつも使っているGoogle検索の画面が開いたので、俺は両手をキーボードの上に置いた。

 そのまま十分が経った。検索する言葉は決まっているのに何もできない。『自殺』という二文字を打ち込むだけなのに、たったそれだけができないのだ。ここへきて、俺は死ぬことが怖くなったのだ。

 俺はキーボードから手を離すと、椅子から立ち上がり、狭い部屋をぐるぐると歩き回り始めた。どうする? どうすればいい? どうすべきなんだ? いくら考えても答えはでなかった。それでも歩き続けていると、パソコンの画面がやけに明るいことに気がついた。いつの間にか日も暮れて、部屋の中が暗くなっていたのだ。

 これ以上考えても無駄だと思い、俺と同じパーキンソン病、それも若年性と闘っている人はどのような生活を送っているのか調べてみることにした。

 ネットで有名なパーキンソン病患者の交流サイトはすぐに見つかったが、そこはすでに活気がなく、希望と呼べるものはそこにはなかった。誰もが人生を諦めており、病気と共になすがままの人生を送る人しかそこにはいなかったのだ。

 定年後に発症する普通のパーキンソン病とは違い、働き盛りの人に発症する若年性パーキンソン病は、『働き盛り』という特有の事情がある。人生で一番忙しい時期に、健康な人でもうつ病になってしまう今の世の中で、病気という足枷がつくのだから、心が折れるのも当然である。

 それでも俺は諦めきれず、希望を持った若年性パーキンソン病患者はいないのか探すことにしたが、見つかったのは全て家族が書いたものであり、希望を持った患者本人が病気に負けず人生を謳歌しているようなものは見つからなかった。

 若年性パーキンソン病になっても、明るく生きている人はいないのか? 世界にはこんなにたくさんの人がいるのに、病気に負けないタフな人はいないのか?

「なければ作ればいい」 

 昔、俺が不動部長から言われた言葉が頭によぎった。

 今の俺が一番欲しい、輝いている若年性パーキンソン病患者。その存在に俺自身がなるのだ。そのために俺がすべきことは、自分で自分を騙すこと。自分の病気について出来る限り忘れて健康であると思い込むこと。動かない体を動かすために健康な人よりも動く体に鍛え、これから悪化する症状に直面しても心が折れないように常に最悪の事態を想定しておくこと。限界は作らず、やりたいことは何でもやる。

  一度は消えた心の中の炎が、再び灯り出した。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』24へ続く