鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』22

 病名がついてから迎える二度目のおおみそか。昼になっても俺は布団から出れなかった。

 自分が不治の病になったと分かっても、仕事に追われ、仕事のことしか考えず、仕事のためだけに生きてきた。もう俺には、仕事しか残されていなかった。恋も終わり、趣味もない。仕事のない連休は、俺に今後の未来について考える時間を与えてきた。それまで頭の片隅に隠し続けていた『これから少しづつ体の自由が利かなくなって寝たきりになる』という未来を突き付けてくる。

 酒もタバコもギャンブルも女も。悪いといわれることは何一つやらず、真面目に生きてきた。同僚たちからは、つまらない男だと馬鹿にされたこともあったが、それでも真面目に、正直に、正しく生きていれば、人並みの幸せは手に入ると思っていた。

 決して高望みしたわけではない。普通の人生を普通に歩みたかっただけなんだ。それなのに、俺に用意された人生は、難易度ベリーハード、クリアできた人は世界でも数人しかいないという鬼のような人生だった。

 仕事が生きがいだったのに出世コースから外れ、結婚したかったが進行性の病持ちを受け入れてくれる女はいない。漠然と思い描いていた明るい未来への道はすでに絶たれていた。進行性特有の恐怖や不安を抱えながら、寝たきりになるのを待つだけの人生。そんな辛い人生を生きる意味はあるのか? まだ自由がきく内にさっさと人生を終わらせた方がいいのではないか? 

 死にたくない。でも、死んだ方が楽だ。生きたい。生きることに何の意味がある? これは悪い夢だ。目を覚ませば、なかったことになるんだ。

 俺は悪夢が覚めるのを期待して眠る。眠気がなくなったら、テレビゲームをやる。漫画を読む。エッチな動画を見る。それで気が晴れるのならいいのだが、空しくなるだけで何の解決にもならなかった。

 孤独。俺は孤独だ。誰にも、この病気の苦しさは理解できない。進行速度が遅いとはいえ、毎日、朝が来るたびに、自分の体が思い通りに動かなくなっていく、この苦しみが理解できるか。気が狂いそうになりながらも、自分で自分をなだめて、空元気で笑顔を作って、弱音を吐きたい気持ちや愚痴を無理やり抑え込む。こんな人生、もう嫌だ。

  連休最終日。楽に死ねる方法を検索するため、俺はパソコンの電源を入れた。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』23へ続く