鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』20

第二章

 若年性パーキンソン病という病名がついてから一年以上が経過した。三月の札幌は灰色のアスファルトが顔をのぞかせてはいるものの、まだ歩道には雪が残っている。暦は春になっているが、肌寒さはまだまだ冬だ。 

 俺は今、会議室にいる。全社会議でも使用する社内で一番広い会議室ということもあり、暖房をつけても冷えきった部屋が温まることはなかった。寒さで体を少しこわばらせながら小さな町内会の会館ほどはある広さの会議室の端に、俺と梶原部長、総務部の不動部長が座っていた。俺の目の前の長テーブルの上には『辞令』と書かれた紙が一枚置かれている。

「――というわけで、四月から総務部で頑張ってもらうことになった。病気のこともあるし、内勤の方が君も楽だろう?」

 それまで俺のことを目の敵としてしか見ていなかった梶原部長が、先程からやたらと褒めている。心にもないことをこんなにスラスラと語れるところは、さずが営業といったところか。言葉だけを見れば、人の良さそうなことを言ってはいるが、ようは難病になった俺の扱いに困ったので追い出したいだけだ。俺が担当だった大口の仕事もこれからは梶原部長は担当するらしい。分かりやすい手柄の横取りである。

「佐伯、お前のことだ、今は納得がいかないだろう。だがな、俺はチャンスだと思っている。俺の元で事務を学べば、お前はもっと成長する」

 不動部長の目を見れば分かるが、本気で俺の成長を望んでいるのだろう。それは嬉しいが、今回の異動の理由が俺の病気だけでないことは俺がよく知っている。会社は、あの事件の真犯人を見つけずにうやむやにして、俺一人に責任を押し付けるつもりなのだ。今は風向きが悪いことはよく分かっているし、社内で俺の味方は不動部長だけなことも知っている。だから、今は、今だけは、黙って不動部長の元で大人しくしていよう。

「はい。分かりました。梶原部長、今までありがとうございました。不動部長、これからよろしくお願い致します」

 俺は立ち上がって深々と頭を下げた。下げた俺の顔には、怒りに満ちた表情が浮かび、噛みしめた奥歯はギリギリと鳴っていた。握った拳の手のひらには爪が刺さっていたが痛みは感じなかった。俺は真犯人を許さない。いつか、俺の手で、俺を陥れようとした真犯人を絶対に見つけてやる。

 その日、俺は病気だけでなく、見えない真犯人と戦うことを決意した。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』21へと続く