鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』19

『どういうこと?』

『今夜、急用が入ったので行けません』

『デートは?』

『しません』

『予約したんだよ?』

 「ごめんなさい」と泣いているウサギのスタンプが送られてきた。

『どうしても無理なの?』

 諦めきれない俺はメッセージをさらに送ったが、既読にならないまま二日後の月曜日を迎えた。俺は取引先のイベント手伝いに駆り出されていたため、直行直帰で、鈴原さんには会えなかった。

 もし会えたとしても何と言えばいいのか分からなかったので、ちょうど良かったのかもしれない。結局それからというもの、彼女からLINEが来ることは一度もなかった。

 

 週末の土曜。俺は予約を入れていた神経内科にやってきた。今まで通っていた総合病院と比べるとかなり小さいが、建物自体は新築のようで綺麗だった。

 待合室は近所の内科や毎月通っている総合病院と違い、受付を終えて問診票を提出すると、すぐに診察室に呼ばれた。総合病院と違って回転率が高いのかもしれない。

 診察室に入ると、年配の人の優しそうな医者が座っていた。

 問診票を元に聞かれる医者の質問に答えながら、今までの体調不良について俺は全部説明した。 

「なるほどね。ちょっと立ってくれる?」

  俺は言われるまま立ち上がる。

「左腕をこうやって動かしていてね。右腕の様子を見るから」

 医者に言われるまま俺は、左腕を下から前へ、前から上へと、180度動かし続けた。しかし、医者はその動かしている左腕は見ずに、俺の右腕を肘を支点に曲げたり伸ばしたりと動かして何かを考えている。

「ああ、歯車現象あるね」

「歯車?」

「うん、これは間違いないね。一応、他の病気の可能性もあるので、念のためMRI撮りたいんだけど、いいかい?」

「は、はい。よろしくお願いします」

 『歯車』という病気とは無関係なキーワードに戸惑いながら、俺はMRIを撮ることになった。

 

 MRIを撮って診察が再開された。

 いつものようにMRIで撮られた俺の脳には何一つ異常がない。脳に異常があれば手術などで治せる脳の病気なのだが、脳の異常がないのに体に異常が出ているのであれば、それは原因不明の難病となる。

 この日、俺の体調不良に病名が付いた。若年性パーキンソン病。それが、俺がこれから闘うことになる最悪の病気の名であった。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』20へ続く