鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』17

 普段、総務部には長居しないから気づかなかったが、部屋中いたるところに背丈を超える高さのグレー色のキャビネットが立っている。席の配置に合わせて並べているようで、一人に一つ当たっているようだ。デジタル社会の今時、紙の書類で仕事をやっているとはなんとも時代遅れである。呆れながら部屋中を見回していると、各自の机の上が色鮮やかであることに気がついた。男だらけの営業部と違い男女半々の総務部はそれぞれの机の上に、キャラクターグッズなどが置いてあって同じ会社とは思えないほどだった。

 アイドルやアニメのキャラグッズを並べる机が多い中、鈴原さんの机は少し毛色が違った。北海道の人なのに、まりもっこり、メロン熊、まんべくん、といった北海道のゆるキャラたちが十数体並んでいた。一人旅が好きで全道を回っていると言っていたので、このゆるキャラたちは観光地をめぐったときの記念品なのだろう。お茶を習ったり、一人旅に出かけたり、本当に鈴原さんは行動的な人だ。

 ブーブーと音を立ててスマホが震えた。相手は鈴原さんだ。三十分ほど待たされたがやっと返事がきたようだ。

『ごめんなさい。もう一度調べたらバッグの底に入っていました』

『鍵があって良かったよ。じゃあ、今夜七時に三越のHILOSHI(ヒロシ)前で』

『はい』

 「ありがとう!」と話しているウサギのスタンプが送られてきた。

 ありがとうの言葉とウサギのスタンプだけでは割に合わないが、今夜は久しぶりのデートだ。いつも食事だけで終わっていたが、今夜こそは最後まで行ってやる。ただのいい人で終わるのも今夜で終わりにしよう。元は取らせてもらおうか。

 これから起こる楽しい甘いひと時を想像しながら、俺は締まらない顔をさらに緩ませた。

 

フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』18へ続く