鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』13

 季節は夏から秋、そして冬になっていた。十二月上旬、俺の住む札幌では、積もりはしなかったがすでに雪が降っていた。腕に違和感を覚えてから約半年。その間、俺は経過観察ということで、毎月診察を受けていたが、原因はおろか病名すら分からなかった。

 地下鉄を降りてから病院までの道のりは少し距離がある。大きな病院なので大型の駐車場はあったのだが、毎年、雪道運転の怖さを痛感していた俺は、休日は運転を控えていたため、公共交通機関で通院していた。バスも走っていたのだが、冬は遅れることが多く、ダイヤは当てにならなかった。待たされることが何よりも嫌いな俺は、運動不足の解消がてら歩くことにしたのだが、ほんの数分歩いただけで息が上がっていた。

 最近、右腕だけでなく右足の調子もおかしくなっており、思っているより足があがらないことが増えていた。何もないところでつまづくことや、障害物を避けようと足をあげたのに、その足が障害物に当たってこけることもあった。社内でつまづくと、まわりからは、おっちょこちょいだと笑われたが、俺は笑えなかった。俺の右腕、右足は確実に俺の思い通りに動かなくなっていたからだ。

 やっとの思いで病院に着き、いつもと同じように受付を済ませ待合スペースで待つ。目の前にある大型テレビでは、最近流行のお笑い芸人が勢いだけの芸で笑いを取っている。笑えない。今の俺には何一つ笑えない。見るだけでイラつく。チャンネルをニュース番組に変えたかったが、目に見える場所にリモコンはなく、その番組を楽しそうに見ている人もいたので、俺はテレビのチャンネルを変えることは諦め、雑誌を取りに移動することにした。

 雑誌コーナーへ向かう途中、医療セミナーの案内が貼ってあるのが目に入った。この病院の医師と別病院の医師の二人でパーキンソン病のセミナーを開くらしい。パーキンソン病といえば、俺が初めて自分の症状を調べたときに出てきた年寄りの病気だ。俺には関係のない病気であるが、別の病院の医師は、その専門医のようだ。ちょうどこの前、不動部長と廊下で会ったとき、セカンドオピニオンを受けたらどうかとアドバイスを受けたばかりだったので、俺はとりあえずその病院でセカンドオピニオンを受けようと思い、張り紙の下に置いてあった医療セミナーのチラシを一枚取って小さく折りたたむとズボンのポケットにねじ込んだ。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』14 へ続く