鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』09

 ピンポーンという音と共に、大型の電光掲示板に『13 総合診療科』と表示された。

「十三番。十三番の佐伯さん。総合診療科へお入りください」

 やっと俺の番が来た。回転の速い内科と違い、俺が受診する総合診療科は最初の人が呼ばれてから三十分以上も待たされた。当初、俺は脳神経外科を受診する予定だったが、『どの診療科を受診していいのか分からない』場合は、総合診療科を受診するのが一番だと受付に勧められたため、こんなに長く待つことになった。

 重い腰を上げて、総合診療科と書かれたスライド式の診察室のドアを開けて中に入ると、細身の若い医者が待っていた。

「おはようございます。こちらにお座りください」

 髪を短く整えた清潔感のあるその医者は、お世辞にも愛想がいいとは言えないが、礼儀正しく頼りになりそうな男だった。

「おはようございます」

 軽く挨拶をして、俺は目の前にあった丸椅子に座った。

「今日は、右腕が重いとのことですね?」

「はい。昨日から急に重たくなりました」

「左腕はどうですか?」

「左は大丈夫です」

「足が動かしづらいと思うことはありますか?」

「足ですか? いえ、特にないですけど」

 いくつか問診を受けた後、俺は電気を神経に通す拷問のような痛みを伴う検査や、レントゲンで首の写真を撮って、再び医者の前に座った。

「どこも異常はないですね」

「でも、腕は重いです」

 医者はデスクに置かれたパソコンのディスプレイに写ったレントゲンを指差した。

「検査では異常は見つかりませんでしたが……」

「腕が重いのは本当です!」

「いえ、そうではなくてですね。この場合、異常がないことの方が問題なんですよ」

「どういうことですか?」

「今日の検査結果だけではハッキリしたことは言えませんが、異常がないのにこのような症状が出る病気がいくつかあります。ただ、どれも難病と呼ばれるものです

「精神的なものということはありませんか?」

「ない、とは言い切れませんが、たぶん違うと思います」

「俺は何か重い病気なのですか?」

「いえ、今の段階では何も言えません。とりあえず経過観察しましょう。また来月来てください。今度はMRIを取りましょう」

「そうですか。これ、すぐに治らないんですね」

「原因が分からないと治療ができませんからね」

  有休を取って病院に来たと言うのに、病名も分からないのでは、上司に何と報告すればいいのだろうか。ズル休みだと嫌味を言われるのではないか。そう考えると気が重くなった。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』10へ続く