鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』07

「馬波物産の件、聞いたぞ。佐伯、お前が取ったんだって?」

「いえ、あれは営業二課全員で取りました」

 八割方は俺の手柄なんだが、最初に話を持ってきたのは梶原部長だったし、プレゼンに必要な機器の購入は戸津川係長が経理課に根回ししてくれたおかげなので、一応営業二課の全員の手柄である。

「へぇ、お前も変わったな。昔のお前なら『俺が取りました!』と言ってたけどな」

「俺もだいぶ丸くなったんですよ」

「体型がか?」

 うっ! 痛いところを突かれた。確かに最近太ったのは事実だ。ここ一か月、残業帰りのコンビニ弁当とおでんとアイスクリームが悪かったか。

「少しだけですよ。少しだけ」

「おいおい、できるビジネスパーソンは体型管理もできるものだぞ?」

「はい」

 厳しいことは言っているものの、不動部長はいつになく嬉しそうだ。弟子の俺が成果を出したことが嬉しいのだろう。俺の上司である梶原部長は、俺が成果を出したと知ったとき、物凄く嫌な顔をしたのと大違いだ。

「佐伯、お前、仕事の調子はどうだ?」

「仕事ですか? 上司は気にくわないですが、順調だと思いますよ?」

「お前な。どこの世界に上司が気にくわないと役員に報告するやつがいるんだよ?」

「えっ? ここにいますが?」

「そういうこと言ってんじゃねーよ。前言撤回だ。お前は、昔と何も変わってねーな」

「ありがとうございます」

「褒めていない!」

 ここにきて不動部長の笑顔が消えた。いつになく真剣な不動の様子に俺の背筋が伸びた。

「申し訳ございません」

 それまで緩んでいた俺の顔も一気に引き締まった。

「佐伯。お前は、社内では俺の次に仕事ができる男だ。しかし、そういう一言多いところが原因で出世できないんだぞ。いいか、会社は組織なんだ。一人で仕事をする場所じゃないんだ。まわりの人たちの協力を得ないで成功することはできないんだぞ?」

 まわりの人? 俺よりも仕事ができない人に何を協力してもらうんだ? 

「お言葉ですが、馬波物産の件は、ほとんど私一人でやりました。他の人の協力はいらないと思います。不動部長もご存知の通り、この会社に優秀な人間がほとんどいません。彼らの力を借りる必要はないと思います」

 不動部長は目を瞑って大きなため息をつくと、手で払いだした。

「もういい。お前とこれ以上話しても時間の無駄だ。戻れ」

「仕事ができればそれで充分じゃないですか。それよりも、今回の件を考慮して私を昇進させてください!」

「無理だ」

「どうしてです!?」

「足りないからだ」

「何がです!?」

「それが自分で分かるまでは、お前を上に上げるつもりはない。話はこれまでだ。いいから自分の席に戻れ」

 そう言うと不動部長はソファーから立ち上がって、俺に背を向けてデスクの後ろにある窓から外を眺め出した。

 俺は納得できなかったが、言われるまま部長室を出た。

 

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』08へ続く