鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』01

注:この作品は11月の文フリ用作品がいつまで経っても書けないので、プロットなしの下書きを勢いだけで書いて、後で手直しして、まとめるために書いています。思いついたものから書くため、ストーリーが前後したり、話が飛んだりします。また、つじつまのの合わない設定などが出てくると思われます。アイデアのみで文書になっていない部分も出てくるでしょうが、完成後に訂正されるはずです。

 

イメージソング 

 

まえがき

 私は今、生きている。金も、女も、健康も、一度は全て失ったが、それでもこうやって自分の両足で立っている。全身を襲う病気の痛み、過去の自分が作り出した負の遺産、嫉妬、妬み。あらゆるものが、私を孤独の底に突き落とし、その度に負けそうになった。それでも、ここまで這い上がってこれた。

 この世界は理不尽で、平等ではない。誰もがそんな世界の真理に触れ、諦め、絶望し、この世界に流されることを受け入れるようになる。それもまた、この世界の真理の一つなのだろう。私は「あなたは他人を受け入れない」と言われたことがある。しかし、それは正確な表現ではない。正確に言うなら「私はこの理不尽な世界そのものを受け入れていない」のだ。

 人生を賭けて何かに挑戦しようとする人や、生まれ変わろうと努力している人を、素直に応援できない人もこの世界の一部だが、彼らはこの世界のエキストラでしかない。メインキャストなら、主人公に手を貸すものだし、彼らがエキストラでないのなら、何らかの物語を自ら紡いでいる主人公になっているはずだ。

 私は、この理不尽な世界で戦うことを選び、そして、一歩前へ歩み始めた。この物語は、私の人生を賭けた最初の悪あがきである。

 

第一章

 朝八時、通勤ラッシュのコースをいつも通りに走り、会社の駐車場に車を停める。エンジンを切って車のキーを引き抜いて車外に出ると、ワイシャツからはみ出している首の後ろがジリジリと照りつける太陽の暑さで焼かれてヒリヒリする。エアコンのきいた快適な車内から、真夏の炎天下。毎日のこととはいえ、この温度差は不快である。

 駐車場は会社から少し離れており、車から降りてから五分は歩かなくてはならない。夏は暑さ、冬は寒さにさらされるその五分間が嫌で仕方がないが、愚痴を言ったところでこの日差しが和らぐわけではない。俺は短い溜息をついて、いつも通り、車のキーをロックして会社へ向かう。――はずだった。なのに、カチャッっと言う音を立てて、俺の足下には右手の掌に包まれているはずの車のキーが落ちている。連日の残業で疲れているのかもしれない。俺はそれ以上深く考えず鍵を拾って会社に向かった。

 

 玄関を開けるとエアコンで適温になった気持ちのいい空気が迎えてくれた。俺はポケットから取り出したタオル地のハンカチで流れる汗を拭きながら自分の所属する営業部のドアを開けた。九時営業の一時間前とはいえ、まだほとんどの人が出社していない。

 俺がこの会社に出社したばかりの頃は、営業開始の一時間前には出社して掃除をし、三十分前には仕事に取り掛かれる準備をしておけと言われたものだ。それがどうだ。あれから十年経って、俺の指導係であった部長が会社を去って、その時の先輩たちも家庭の事情などから会社を辞め、営業部のメンバーも半数は新しい人に変わった。新しい風が入るのはいいことだし、就業時間になるまで席に着かないという考え方もあるだろう。

 しかし、その結果、部署内の人間がそろうのが営業開始の五分前。営業が始まってから仕事の準備をするため、朝一で取引先から上司に電話がかかってきたら、前日の夜に取引先とした約束の報告が電話の後となる。もちろん、報告を受けていない上司には、話の見えないことなので、取引先と話が合わない。おかげで、朝から後輩が上司から怒られている。新人でもないのに報連相もまともにできない部下も部下だが、部下を教育できない上司も上司だ。仕事のできない奴らに限って、毎日、非生産的なことで時間を無駄にしている。

 報告書も兼ねた日報を朝九時の時点で出し終えていた俺は呆れながらも、今日の予定を確認し、ホワイトボードに行先と帰社時間を書き、朝から大きな声で部下をしかりつけている上司の横を通って会社を後にした。

 

 車のドアを開けると、夏の日差しで温められた空気がもわっと流れてきた。外よりも暑い車に乗り込むとエンジンをかけ、エアコンの強さを最大にした。ステレオのスイッチが自動で入り、最近お気に入りのバンドの歌が車内に響き渡る。軽快なリズムと前向きな歌詞が今の俺の心に染み入る。音楽に合わせて鼻歌を歌いながら駐車場から車を出した。ハンドルを切ったとき、反応が少し遅い感じがした。ハンドルもいつもより重たい気がする。車の調子が悪いのだろうか。午前の外回りが終わったら、夕方まで約束もなかったので、午後一で知り合いの自動車整備工場に持って行って見てもらうことにして、アクセルをふかして取引先に向かった。