鉄仙のショートショート

2012年に若年性パーキンソン病を発症。アマチュア作家。

金のリンゴの木

 ある辺境の地に100本のリンゴの木が生えていました。

 そこに旅人がやってきて、リンゴを1つ取って食べました。

「美味しいけど、普通のリンゴだ」

「おや、旅人の方ですか?」

 旅人が振り返ると、そこには真っ白な長い髪と髭のおじいさんが立っていました。

「すみません。このリンゴの木はあなたのものでしたか?」

 旅人が頭を下げて謝ると、おじいさんは笑顔で両腕を広げながら言いました。

「お気になさらず。お好きなだけお食べください」

「ありがとうございます」

 旅人が感謝をすると、おじいさんは森の奥を指さして言いました。 

「この先に黄金のリンゴがなる木があります。それこそがあなたの求めるリンゴだと思います」

 旅人が森の奥へと進むと、おじいさんの言うとおり黄金に輝くリンゴを実らせた木が1本だけ生えていました。

 旅人は光輝く黄金のリンゴをもぎとって食べました。

「美味い! この世のものとは思えない!」

「お気に召しましたか。よければここにある100本のリンゴの木を全てあなたに差し上げますよ」

「いいのですか?」

「ええ。ただ、黄金のリンゴがなる木はこの1本だけで、年に1個しか実をつけません。この木は、普通のリンゴの木と同じように育てることができません。特別なものには、特別な対応が必要なものです。決して、他の木と同じ扱いをしてはなりません」

 旅人はおじいさんから黄金のリンゴの木の育て方を教わりました。

 特別な対応と言っても難しいものではなく、他のリンゴの木より優しく扱うというものでした。与える水の量を少しだけ多くする。毎月、黄金の木のまわりの土を栄養のあるものと入れ替える。普通のリンゴの木よりも手間はかかりましたが、年に1個だけ実をつける黄金の果実はこの世のものとは思えない格別な味がしました。

 旅人がリンゴの森で暮らすようになってから1年が経ちました。黄金のリンゴは大変貴重なものなので、1個売るだけで1年分の生活ができ、他の99本の木になったリンゴも売れば2年は生活できました。

 リンゴの森で暮らしてから2年目。黄金のリンゴの木を育てることに疲れてきた旅人は、他の99本と同じように育てることにしました。

 特別な育て方をしなかったため、黄金のリンゴの木に実はなりませんでしたが、旅人は99本のリンゴの木になったリンゴを取って売ることにしました。それでも1年は生活できるはずでした。

 しかし、どうでしょう。99本のリンゴの木になったリンゴはどれも酸っぱく不味いではありませんか。

 旅人はおじいさんが別れ際に言った言葉を思い出しました。

「特別なものは、ただそこにあるだけで、他のものを引き立てます」

 99本のリンゴの木になるリンゴが美味しかったのは、黄金のリンゴの木になった黄金のリンゴの輝きがもたらしたものだったのです。