鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

2018文フリ用

文芸誌『闇鍋』創刊!

文学フリマ東京にて、文芸誌『闇鍋 創刊号』を発売します! 創刊号は7名の作家による7つのショートショートアンソロジー(4,000字以上の作品です)となります。 価格は例のごとく一冊500円1,000円(500円で売るには勿体ない出来なので1,000円に変更しました…

文学フリマ東京(11/25)にて小説を販売します!

11月25日11:00~17:00に東京流通センター 第二展示場で開催される『文学フリマ東京』にて、私が初めて執筆した長編を販売します。 サークル名は『堕楽堂』で、ブース番号は F-39 です。 タイトルは『かぎろい』です。ここで連載した作品(この心臓が動く限…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』55

エピローグ 部屋に入ると、俺はそのままベッドへと向かって大の字で寝そべった。 あっという間の一日だった。午前八時に会場入りして設営を初め、片づけが終わったのが午後六時半で、ホテルに着いたのが午後七時。この間、交代で何度か休憩を挟みはしたが、…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』54

ヒヤリと頬に冷たいものが当たる。顔を向けると冷たい物はコーラだった。 「一息入れたら? リーダーが倒れたら、みんな困るでしょ?」 コーラを差し出しているのは岩井主任だった。 「ありがとうございます!」 俺は受け取って一気に飲んだ。 炭酸が鼻を抜…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』53

岩井主任が総務部を出てから三十分経った。すぐに帰ってこないところを見ると説得に時間がかかっているのだろう。 俺は言われた通り、やるべきことを全てリストアップしていた。改めて書き出してみると、当初の予定より、やらなければないことが多く、時間が…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』52

「お疲れさまでした」 午後六時。退社時間を迎えて総務部のメンバーも次々と部屋を出て行く。金曜の夜ということもあり、いつもの残業メンバーも今日は三十分ほどで帰るようだ。 「お疲れさまでした。あれ? 佐伯さん残業? 急ぎあったっけ?」 俺の横を通っ…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』51

日本最大級のアナログゲームイベントであるアナログゲームフェスティバルは、企業、個人分け隔てなく新しいアナログゲームを発表できるイベントである。 それまで主流だったテレビゲームのようなデジタルゲームから、昔ながらのボードと駒を使ったアナログゲ…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』50

あれから二週間経った。北海道は異常気象らしく、まだまだ夏は始まったばかりだというのに、すでに真夏日を迎えていた。連日の暑さに俺は少し夏バテをしていたが、開けた窓から入ってくる心地よい風に包まれながら、窓から見える広い青空を横目に、ゆったり…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』49

鈴原さんと後藤課長、それと未だに状況を飲み込めず狼狽えている営業部の梶原部長を残し、俺たちは会議室から総務部長室へと場所を移した。 部長室のドアを閉めると俺は不動部長に問いただした。 「不動部長! 探偵を雇っていたのに、なぜ教えてくれなかった…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』48

一週間後、関係者だけが呼ばれた会議室では怒号が飛び交っていた。 「こんなのただの憶測じゃないですか! 言いがかりです!」 うつむいて黙り続けている後藤課長の横で、鈴原さんは声を荒げていた。俺の用意した証拠を何一つ認めず、証拠として会議室に持ち…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』47

分かってしまえばなんのことはない簡単なアリバイ工作だった。 俺の会社では、出張する者が前日までに自分で宿を取り、簡単なスケジュールを上司に報告することになっている。出張が終わった翌日に簡単な報告書と宿泊などにかかった領収書を添付し、承認され…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』46

ショックだった。 鈴原さんとは自然消滅したとはいえ、病気で落ち込んでいたときに励ましてくれたことは今でも感謝している。あのとき、優しい声をかけてくれなければ、今頃、俺は……。 「私ね。鈴原さんのこと嫌いなんだ」 「どうしてですか?」 「鈴原さん…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』45

「お、お疲れ様です。岩井主任、どうしたんですか。こんな時間に」 「たまたま会社の前通ったらさ。まだ総務部の明かりが点いていたんで、もしかして佐伯さんかなと思って寄ってみた」 会社の前を通った? あれ、おかしいな。岩井主任の家って会社から歩ける…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』44

若林のプロジェクトが暗礁に乗り上げた。商品開発部が本格的に動き出してから重大な欠陥が見つかったのだ。 情報漏洩事件が発生してからというもの、うちの会社では商品開発が始まる前に社外へ大々的に発表することが増えていた。若林のプロジェクトもアナロ…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』43

苛立ちながら総務部長室に入ると、不動部長はすでに応接スペースのソファーに座って待っていた。 「取りあえず座れ」 缶コーヒーが二本置かれているテーブルを挟んで俺は不動部長と向かい合わせに座った。 「ご用件はなんでしょうか?」 「いいからまずこれ…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』42

「佐伯先輩。ちょっと時間ありますか?」 倉庫で一時間ほど時間を潰して戻ると、誰かが俺を呼び留めた。振り向くと営業部の若林だった。 「どうした?」 「新しいプロジェクトを任されたのですが、アイデアが浮かばなくて……」 若林の話を聞くまでもなく、『…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』41

休みが明けた月曜日。出社すると俺の机に懐かしいクッキーが置いてあった。口の中に入れるとホロホロと崩れ落ち、鼻腔を抜けるバターの香りと濃厚なミルクの風味が美味しい函館土産で有名なクッキーだ。小さい頃はお土産でもらうと喜んで食べたものだ。 「懐…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』40

「佐伯さんは進行が遅いようなので、そんなに心配する必要ないから。あれやっちゃダメとかないから好きなことバンバンやった方がいいと思うよ」 かかりつけ医からは毎月こんなことを言われる。 確かに俺の症状は全身の痛み以外大したことない。手も震えない…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』39

「ダメだ。こんなんでそいつが認める訳ないだろ? それにだ。疑われているお前が撮った写真なんて何の証拠にもならん」 「じゃあ、どうすればいいんですか!?」 総務部長室に不動部長と俺の声が響ていた。俺が持ち込んだ雑誌とこの前撮った写真を不動部長に…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』38

翌日の昼。俺はまだ領収書のチェックをしていた。結局、あの後、さらに二時間残業したが終わらず、昼になってもまだ続けていたのだ。 昼飯を食べる時間を惜しみ、昼食代わりにと買った一日に必要な栄養が取れると謳われているゼリー飲料を飲むため、引き出し…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』37

女は女だけでコミュニティーを作っており、男はみな孤立している総務部に俺の居場所はなかった。仕事で分からないことを聞いても、俺が男だと理由で女性陣の態度は冷たく、仕方がなく聞いた管理職である男たちは、忙しいので後にしてくれと相手にすらしてく…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』36

第三章 会社に新しい風が入ってくる四月。新入社員の入社と共に、俺も営業部から総務部へと異動することになった。 営業部時代にも何度か総務部へ足を運ぶことはあったが、それまで業務に関係のある人としか話さなかったため、顔は見たことはあるが名前の知…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』35

村山さんと付き合うようになってから一か月後、俺は二月十四日のバレンタインデーを迎えていた。早朝出勤して仕事を定時までに終わらせると、そのまま村山さんのマンションへと向かった。約束していたわけではなかったが、サプライズとして、買ったチョコレ…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』34

「おはようございます。俺は少し前に札幌駅に着いたので、その辺をぶらぶらしています。今から待ち合わせ場所へ向かうので、先に着いたら待っていてください」 俺は電話をしながら早足で札幌駅に戻った。電話では何事もなかったように装えたが、先程見た光景…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』33

「佐伯君、悪いんだけど、今から人と会うんで帰ってくれないかな?」 どこか必死な後藤課長の様子が気にはなったものの、迷惑をかけるわけにはいかないので、俺は大人しく帰ることにした。 「あっ、すみません。気がつかなくて。じゃあ、また今度」 慌てて席…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』32

あの会議の後、俺は病気を理由に外回りから外された。プレゼン資料の作成や取引先データの整理を任せられて、一日中社内でパソコンを睨み付けるようになった。 「会社を売った金でお洒落するなんて大した玉だね」 「最近、通院だと言って休んでいたのってさ…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』21-2

書庫から取引先のデータがまとめられたファイルを見つけると、左手で器用に抜き出して自分の机にあげる。俺は右利きだが、病気で右腕が不自由になってからというもの文字を書くことと箸を持つこと以外は全て左手で行うようになっていた。うっかり落とすおそ…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』31

「先輩がLINE始めたこと知らないんじゃないんですか?」 「そうかもね」 俺は苦笑いしながら、手元の資料を読み始めたが、寝不足で集中力が欠けていることと、LINEグループに入れてもらっていなかったことが気になってしまい、何一つ頭に入ってこない。 「お…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』30

岩井主任は、一セット分のコピーが出来上がるたびに角をホチキスで留めては、すぐ横の三課の後藤課長の机に乗せていく。後藤課長は出張が多い人なのでデスクの上はいつも空いており、物を置くスペースとしては丁度よいのだ。 「ああ、それな。私もあんまり詳…

文フリ用連載『この心臓が動く限り、俺は諦めない』29

鏡の前に立つ自分は別人のようだった。整髪料で固めた寝癖のない頭、整えられた眉、短く切り揃えられた爪。専門店で買った上質のワイシャツに結ばれたブランドネクタイと袖から覗くお洒落なカフリンクス。ネクタイの中心で光るタイバーは、全体の印象を引き…