鉄仙のショートショート

2012年に若年性パーキンソン病を発症。アマチュア作家。

小説『ロックダウン~東京・都市封鎖』のプロット②

第二章

 今から一年前、愛情ホルモンと呼ばれるオキシトシン研究で注目されている佐藤助教授は、学会で研究結果を発表していた。参加者の中では唯一の女だったが、この業界は女だから持てはやされるわけではなく、そういう意味では、男女平等の世界だった。オキシトシン研究に興味を持つ者は少なく、会場で静かに聞いているのは、同じ発表に参加する他の研究者と教え子ぐらいなものだった。一人をのぞいては。

 参加者だけが参加するパーティーで、先ほど気になった知らない男が佐藤に挨拶をしてきた。男はDNA解析の研究をしている山川と名乗った。二人で飲むことになり、誘われるまま男が泊まるホテルへ行くと、佐藤は書類の束を山川に突きつけられた。戸惑いながら読むと、そこには、人類の十分の一にあたる人々に、ある特殊な遺伝子を持つことが判明したという結果が書かれていた。そして、その遺伝子を持つ人々は、好んで都市部に集まる傾向が見られたということも書かれていた。

 驚く佐藤に、山川は言った。「何者かが、私たちの遺伝子を操作して、特定の場所に留まらせようとしている」

 佐藤は山川の陰謀論に呆れて部屋を出て行った。

 

 一週間後、佐藤の研究室に封筒が届いた。送り主は、山川で、中にはUSBメモリーが一つだけ入っていた。佐藤は、USBメモリーの中を見ずに引き出しにしまうと、そのまま山川のことを忘れた。

 一ヶ月後、山川がテレビに出ていた。世界中であらゆる分野の研究者が変死したというニュースで、山川は被害者の一人だった。

 慌てて引き出しのUSBメモリーを探して中を確認すると、そこには驚くべきことが書かれていた。遺伝子操作は、人類ではない知的生命体の仕業で、その目的を阻止するために対策チームのメンバーを集めようとしていることと、その証拠となる調査結果が示されていた。メンバー候補として上げられていた二十人近くの研究者の内、十六人が先ほどテレビで変死したと伝えられた者だった。

 佐藤は、メンバーの共通点を見つけるためリストを確認するが、共通点を見つけることはできず、リストにある中で、まだ死んでいない研究者に電話をかけることにした。自分をのぞいて三人の内、一人は一週間前に持病の悪化で病死しており、一人は海外で現在行方不明。最後の一人は、電話中に発表されたニュースで変死していたことが発表された。

 佐藤は自分だけが助かった理由を考えて、一つの結論にたどり着いた。佐藤は十年前に離婚していたが手続きの問題から以前の名前を使い続けていた。それが、一ヶ月前に十五年勤めた大学を辞めて、民間の研究所に移るにあたって、戸籍と同じ佐藤を名乗るようになった。リストに載せられている名前は結婚当時の萩原のままであり、研究者たちを殺した犯人は、名字を変えて、職場も変えた佐藤を見つけることができなかったのだ。

 自分が助かった理由らしきものが判明した瞬間、研究所の電話が鳴った。佐藤はタイミングの悪い音に怯えながらも出る。電話の相手は、韓国人のムンス。英語で話しかけてきたが、電話をかけている場所は中国からだった。ムンスは、中国で新しいメンバーを集めており、最後のピースとして佐藤が必要だと言う。

 「必要な金は振り込んであるので、今すぐ、中国に渡って欲しい」とムンスに言われてネットバンクを確認すると、佐藤の口座には三千万円が振り込まれていた。

 中国に渡った佐藤は、人で溢れる市場の奥を進んだ。店の奥に案内され、掛け軸の裏に隠された扉を開けると、細い階段で下へと降りた。最新の機器で囲まれた軍事施設みたいな場所で、そこには、あらゆる人種の、およそ研究者とは思えない格好の人たちが集まっていた。

「ようこそ希望の箱船へ。同志よ、私たちは君を持っていた」佐藤を囲んだ人々は微笑みながら言った。

 

→第三章(非公開)