鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

嘘の告白

「お前は地獄行きだな」

 俺は今、あの世にいる。そして、地獄行きを宣告された。

「お前も地獄行きだな」

 事故で一緒に死んだ妻も、同じく地獄行きを宣告されたようだ。

「なんで私が地獄行きなのよ!」

 あの世で審判をしているという閻魔大王に妻が楯突いている。

「お前たちは嘘つきだ。ワシは嘘つきが大嫌いでな。嘘つきは全員地獄行きだ」

「嘘なんてみんなつくじゃない!」

「そうだ。だから全員地獄行きにしておる」

「閻魔大王様、大変です」

 子供ほどの背丈のミニ閻魔大王が慌てて閻魔大王に駆け寄ってきた。

「なんだ? 小閻魔」

「今のペースで行けば、地獄は後10年でいっぱいになってしまいます。大閻魔大王様が今後は二人に一人は天国行きにするようにとおっしゃっています」

「それはまずいな」

 閻魔大王は腕を組んで考え込み始めた。

「よし、決めた。お前らにチャンスをやろう。お前ら夫婦が互いについた嘘や秘密をここで白状せよ。最も白状した者一人を天国行きにしてやろう」

 こうして俺たち夫婦の暴露合戦が始まった。

「私は整形しています」

「えっ? 整形? プチ整形とか?」

「いいえ、目に鼻に顎。いじれるところは全部」

 確かに妻は美人だが、まさか整形だったとは……。

「実は俺、カツラなんだ」

 俺は自らカツラを取って、はげ上がった頭を妻に見せた。

「そんなこと出会った時から知っていたわよ」

 知っていたのか。俺は妻にバレないよう20年近く必死で隠していたのに。あれは無駄だったのか。

「私の初めての相手はあなただと言っていたけど、あれは嘘よ」

「まあ、それはなんとなく分かっていたよ。なんかやけに落ち着いているなと思っていたから」

「まあね、あなたでちょうど100人目だったからね」

「100人か。それはキリのいい数字だな」

「でしょ? だから私もそろそろ落ち着こうかなと」

「なるほどね……? 100人? 100人目? お前、それどういうことだよ? 100回ということか? それとも100人の男ということか?」

「名前を知っている男だけで100人」

「マジか……」

 これはきつい。両手でも数え切れないとは……。

「それで終わりか?」

 閻魔大王が催促する。

「俺にはヘソクリがある。それに浮気をしたことが1回だけある」

「私は現在不倫中。父の入院費用だと言って貯金を崩したお金で、あなたが出張中に不倫相手の彼とハワイに行ってきたわ」

「嘘だろ……」

「本当よ」

 なんてことだ。俺の妻が不倫していて、不倫相手とハワイに行っていたとは……。俺も行ったことがないハワイに、俺が稼いだ金で行っていたなんて。

「まだまだあるわよ。私は……」

「待て待て。女、もういい。結果は出た。お前を天国行きにしてやろう」

 閻魔大王が妻の話を遮り、天国行きを決めてしまった。天国に行けるのは一人。俺の地獄行きが確定してしまった。俺は妻の秘密に気づかず、騙され続けたあげく、地獄行きとは死んでも死にきれない。いや、もう死んでいるから、死にきれてはいるか?

「閻魔大王様、俺は地獄行きですか?」

「ワシは閻魔だが鬼ではない。このままではお前があまりに不憫過ぎる。異例だが、ワシの特権でお前を生き返らせてやろう」

 なんだって? 俺は地獄行きを免れただけでなく、生き返ることができるのか? 「まずは、男。お前を生き返らせてやろう」

 閻魔大王がそう言うと、目の前の男の姿が消え、女だけが残った。

「次に、女。お前は約束通り天国行きじゃ」

「ありがとうございます」

「お前ほどの嘘つきはワシも初めて見たぞ」

「……」

「天国行きをゆずるために、わざと嘘をつくとはな」

「……」

「ワシの手元にはお前たちの所業が書かれたものがある。お前は整形をしておらんし、あの男が初めての男だった。不倫もしておらん。この場で嘘を言って、自ら進んで地獄行きになろうとするとは」

「私の夫は、お人好し過ぎな所があります。そして、誰にでもやさしい人です。そんな夫を地獄行きにすることはできません」

「やっと、本当のことを話してくれたな。これでお前も返すことができるぞ。ここでの記憶は残らんから、安心して二人仲良くやるんだぞ」

「えっ? 返す?」

 閻魔大王の目の前から女も消える。

「閻魔大王様、いいのですか?」

 小閻魔が不安そうに閻魔大王に尋ねた。

「何がだ?」

「二人とも生き返らせてしまって」

「小閻魔よ。ワシは嘘が嫌いだ。しかし、他人のためにつく優しい嘘は嫌いではない。これは他の閻魔には秘密だぞ?」

  

(この作品はフィクションであり、 実在する人物、団体等とは一切関係ありません)

作品解説

 こちらはWeb光文社文庫SSスタジアムの第2回ショートショート作品募集「テーマ:秘密」にて、優秀作に選ばれた作品です。生まれて初めて公募に出したショートショート作品であり、ほとんど台詞だけで構成されている初々しい作品です(笑) そのため、今現在公募に出している作品と比べると、かなり見劣りしていますが、タイトルを含め色々トリックが施されているので、アイデア自体は良かったのではないかと思っています。

 秘密と嘘「を」告白をしろと言われて嘘「の」告白する妻と、閻魔大王の最期の嘘の告白など、いくつもの嘘を重ねながら、最期まで嘘を見抜けない夫と死んでもなお夫のことを考えている献身的な妻の対比から見える男女の精神年齢についての皮肉を込めた作品となっております。