鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

さっぽる旅行①

 羽田空港から新千歳空港まで一時間半。そこから札幌駅まで電車で一時間。ネットで知り合った大好きな彼に会うために、私は札幌までやってきた……はずだった。

 

 私はホームに降りてすぐに違和感を覚えた。誰もが背中に黒い何かを背負っていたからだ。最初はリュックかと思っていたそれがジンギスカン鍋だと分かって私は開いた口がふさがらなかった。テレビで見たあの黒い鉄製の鍋をみんな背負っているのだ。今日だけの特別なイベントかと思い、キヨスクで飲み物を買うついでにお店の人に聞いてみたら「マイジンギスカン鍋を持ち歩くのは、ポッ海道では当たり前の光景だ」と真顔で返された。

 北海道ではなく『ポッ海道』。少しなまりがあるなと笑った私は一時間もしない内に青ざめていた。本来であれば『札幌駅』と書いてあるべきところに『さっぽる駅』と書いてあったからだ。さっぽろではなく、さっぽる。私は別世界に迷い込んでしまったのだ。

 どうすれば元の世界に戻れるのか分からない私は取りあえず彼に電話してみることにした。私は彼が待ち合わせの場所として指定した大きな熊が日本酒を飲んでいる像の前で待っていた。鮭ではなく酒。やっぱり私のいる世界とズレているようだ。

 三十分ほどして彼がやってきた。金曜の午後二時。本来なら彼はこの時間まだ仕事なのに、私を心配して迎えに来てくれたのだ。私の大好きな彼はとても頼りになって優しい彼なのだ。

 彼が車で宿泊先のホテルまで送ると言って地下へと続く階段を降りて行く。そんな彼の背中にも表面に油を塗ってテカテカと輝いているジンギスカン鍋があった。残念ながら彼は、私の世界の彼とは違う、この世界の彼だった。しかし、彼は別世界の話をする私を馬鹿にはせず、いくつかの仮説を上げて戻れる方法をこれから見つけようと真剣に考えてくれた。世界が変わっても彼の人の好さと常識に縛られないところは同じで、私は安心した。最悪、元の世界に戻れなかったとしても、私はこの彼で満足できると思い始めていた。

 地下街を歩いて辿りついた地下駐車場には、予想通り車は一台もなかった。代わりに犬ぞりがあった。

「よし!」

 私は思わず右手の握拳を握った。ここにきて始めて私の予想が当たったからだ。

 この世界の北海道、いやポッ海道か? まあどっちでもいいが、とにかく寒いらしく、冬は札幌、いやさっぽる? ああもう面倒くさい。さっぽるもマイナス六十度になるそうで凍死する人が毎年いるそうだ。車も一度エンジンを切ると凍って動かなくなるのでマイカーならぬマイ犬ぞりが当たり前らしい。私には彼の犬ぞりと他の人の犬ぞりの違いは分からなかったが、彼のはとても馬力のある犬が八匹で引っ張っているらしい。犬なのに馬力とはおかしいなと思ったが、目に映るもの全てがおかしいことばかりで私はツッコむのをやめた。