鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

いつも一緒だよ。

 僕には親がいない。でも、家族がいる。大好きなショウタお兄ちゃんだ。お兄ちゃんは、いつもどこかに出掛けちゃうんで、僕はいつもお留守番だけど、夜には帰ってきて一緒に遊んだり、ごはんを食べている。体は僕よりも大きくて暖かいので、冬は一緒に寝ているけど、夏は暑苦しくてちょっと嫌だったりする。それでもしつこく僕に抱き着いてくるので、たまに爪を出してやる。それでも懲りずに僕に触ってくる。毛並みがいいと褒めてくれるのは嬉しいけど、本当にしつこくてたまにうんざりする。

 お兄ちゃんが玄関で誰かと話している。いつもは大人しくて落ち着く穏やかな声のお兄ちゃんの声が今日はうるさい。

「うちの子は家族です。ペットじゃないんだ!」

「あなた、頭おかしいんじゃなくて? 猫を家族だなんて……」

「家族と言ったら、家族なんです! 捨てることなんてできません! それに、ここに入居する時、大家さんから猫がダメだとは言われていません!」

「ええそうよ。でもね、私の子供が猫アレルギーなの。それなのに隣のあなたは猫を飼っているでしょ? 分かる? うちの子に迷惑なのよ」

 花の匂いがする声の高い人の声も大きくて耳が痛い。うるさいから早く帰ってほしい。今日はたまにある一日中お兄ちゃんと一緒にいられる日だというのに本当に迷惑だ。

「俺にとって、あなたの子供のことなんかどうでもいい! 嫌ならあなたたちが引っ越せばいいじゃないですか!」

「フン! もういいわ。勝手にしなさい。後悔しても知らないんだから!」

 声の高い人が帰って行った。やっとお兄ちゃんを独り占めできるぞ!

「怖かったろ? ごめんな。でも、追い払ったから大丈夫だぞ」

 お兄ちゃんが僕を抱っこして頬ずりしてくれた。お兄ちゃん、嬉しいけどちょっと痛いよ。

「よし、今日はお詫びにリリの好きなネズミのおもちゃで遊んであげるぞ」

 やったー! お兄ちゃん大好き!

 その日、僕はお兄ちゃんと遊んだ後、ベランダに井草のペラペラしたやつを敷いて一緒にゴロゴロ日向ぼっこしながら寄り添ってお昼寝した。お日様がポカポカ温かくて気持ちが良かった。僕はあまりに気持ち良くていつの間にか寝ていた。

 パン! パン! パン!

 痛い! 変な音がしたら、僕の体も痛くなった。痛くて目を覚ますと、足元にはベランダでよく見るたくさん足のある灰色の虫より少し小さい白く丸いものが転がっていた。コロコロ転がって、あの虫で遊ぶより面白そうだ。

「あんたら何やってんだ! こんなことしていいと思ってんのか!」

 お兄ちゃんも起きていたらしい。でも、大きな声で隣のベランダに向かって誰かを怒っているようだ。

「ごめんなさいね。上の子は優しい子なのよ。下の子の病気の原因を消してあげようとしただけなのよ」

「ふざけるな! BB弾で撃つのは虐待だからな!」

 お兄ちゃんはさっきの声の高い人と話しているようだ。

「何よ、大げさな。子供のしたことでしょう? それに猫は元々狩りをする生き物なんだから、そのぐらい平気でしょ?」

「このクソが!」

 そう言うと、お兄ちゃんがベランダを出てリビングを抜け、部屋を出て行った。すぐに隣の部屋が騒がしくなった。どうやら隣の部屋でお兄ちゃんが何かをやっているらしい。

 バタン! 僕たちの部屋のドアが開く音がした。恐る恐る覗きに行くと、玄関でお兄ちゃん真っ赤に染まって倒れていた。

「あんたが悪いのよ!」

 あの声の高い人が銀色の尖ったものを持って玄関に入ってきた。どうやらお兄ちゃんを追ってきたようだ。

「リリ、逃げろ……」

「お前がいなければこんなことにならなかったのよ!」

 声の高い人がお兄ちゃんを越えて、部屋に入ってきた。逃げる僕を追いかけて、ソファーの裏に隠れた僕をつかまえた。

 痛い! 僕の身体もお兄ちゃんとお揃いの赤色に染まってゆく。

「これでいいのよ! 私は病気の原因を消しただけなのだから!」

 声の高い人が部屋を出て行った。

 僕は頭がぼうーっとしながら、玄関に横になっているお兄ちゃんの下へ向かった。 「リリ、ごめんな……」

 僕は玄関で寝ちゃったお兄ちゃんに丸くなって寄り添った。お兄ちゃんから出てくる赤い液体は温かかったが、お兄ちゃんの元気がどんどんなくなっていく。体もどんどん冷たくなっていく。僕もなんか元気がでないけど、いつもはお兄ちゃんが温めてくれるんだから、今日は僕がお兄ちゃんを温める番だ。お兄ちゃん僕の体で温まって元気になってね。

 大好きなお兄ちゃん、いつも一緒だよ。

 

(この作品はフィクションであり、 実在する人物、団体等とは一切関係ありません)