鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

魔王、復活!

 国の統治機構を破壊し、又はその領土において国権を排除して権力を行使し、その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者は、内乱の罪とし、次の区別に従って処断する。
一 首謀者は、死刑又は無期禁錮に処する。
二 謀議に参与し、又は群衆を指揮した者は無期又は三年以上の禁錮に処し、その他諸般の職務に従事した者は一年以上十年以下の禁錮に処する。
三 付和随行し、その他単に暴動に参加した者は、三年以下の禁錮に処する。

(刑法七十七条一項より引用)

 

 記録には残されていないが、過去に一度だけ刑法七十七条が適用されたことがある。驚くことに集団に対し適用することが想定されたこの刑法七十七条が、集団ではなく、たった一人の男に適用されたのだ。しかし、その事実は人知れず歴史から消される。男は一日で日本の全てを支配し、自らを裁判に立たせて刑法七十七条で裁かれることを望んだ。そして、彼は望み通り有罪となったが、誰一人として彼に死刑を執行することができなかった。刑法七十七条で死刑になるのを望んでいた男だったが、待つのに飽き、散歩へ出かけるように自ら牢を出て街へと戻って行った。

 誰しもが彼の存在を恐れ、彼を魔王と呼び、架空の人物として扱うことで現実逃避することにした。そして、魔王の存在は忘れ去られた。

 魔王は何事もなかったように元の生活へ溶け込んでいた。周りの人たちは彼が力で日本を支配した恐ろしい人物であるということを覚えていなかった。 彼はこの世界にとって埒外の存在であり、この世界にとっては予期せぬバグであった。どんな非現実的なことでも、物理法則を捻じ曲げることができる。それが彼の力の正体だった。それゆえに彼はこの世界に飽きていた。何をやっても簡単に結果を出せてしまう。彼にとってそれはつまらない人生だった。人の心も言葉だけで簡単に操れて、好意を持たせることも、悪意を持たせることも、何でも思いのままだった。

 この世界に飽きた魔王はいつも劇的な死に方を望んでいた。しかし、この世界の法則で彼は死ぬことができなかった。この世界の埒外の存在である彼の身体には、死という概念が埋め込まれていなかったのだ。

 魔王は退屈だった。刺激のない毎日に飽きていた。

 そんな魔王に思わぬ転機が舞い降りてきた。

 奇跡を起こす聖女と呼ばれる女が日本に突然現れたのだ。

 生放送のニュース番組に映る聖女は宙に浮き、東京を突如襲った大震災の被災者を超能力で次々に助けていた。

 魔王はテレビの前で大喜びした。

「ついに俺も本気を出せる時がきたな……」

 そう言って魔王は空を飛び、聖女のいる東京へと向かった。

 その日、魔王は復活し、魔王と聖女の人間離れした戦いが始まった。

 そして、東京は消滅した。

 圧倒的な力の前では法律も国も全てが無力であった。

 

(この作品はフィクションであり、 実在する人物、団体等とは一切関係ありません)