鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

君は星を欲しがる

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「あの一番輝いている星が欲しい」

 君はいつも無理を言って僕を困らす。初めてのデートで君が欲しがったのは、夜空に輝く星だった。

  僕は君が好きで好きで、いつも君の笑顔を見ていたかった。君の笑顔が見られるのなら、どんなことでもできた。

 互いに忙しい中、互いに無理して時間を作って、それでも君はそんな大変さを全く見せなくて、自分勝手な僕を、いつも笑顔で受け入れてくれた。僕はいつも君の笑顔に助けられ、救われ、甘えさせてもらっていた。

 君が職場で倒れたということを知ったのは、君が連絡をくれなくなって1週間後だった。病院で会った君はいつもと変わらない笑顔だった。ただ顔色がいつもより白かった。医者からは最近流行っている原因不明の病気だと教えられた。そして、君の体中の臓器が徐々に動かなくなっていくことも知った。

 僕は毎日、仕事帰りに君がいる病室に寄って面会時間終了の夜8時まで一緒に過ごすことが日課になった。

 「何か欲しいものはあるかい?」と僕が君に聞くと、君はいつも「あの一番輝いている星が欲しい」と答えた。その度に、僕は困った。

 君が最後に笑ったあの夜、いつものように僕が君に「何か欲しいものはあるかい?」と聞くと、君は「欲しいものはないけど、お願いならあるよ。私よりいい女はそうそういないだろうけど、絶対見つけて幸せになってよ」と笑顔で答えた。その夜、僕は静かになった君の横で静かに泣いた。

 この世に、君よりいい女がいるわけがない。終わりを告げるその直前まで笑顔で僕を元気づけてくれるのは、君ぐらいなもんだ。結局、最後まで、僕は君が欲しがるものを用意できなかったし、君の最後の願いも叶えられそうにない。

 君はいつも無理を言って僕を困らす。

 僕は毎晩、夜空の星を眺め、これからも君だけを愛し続けるだろう。あの輝く星も、君も、一生僕には手が届かない。それでも僕は毎日、夜空に手を伸ばす。

 

(この作品はフィクションであり、 実在する人物、団体等とは一切関係ありません)