鉄仙のショートショート

札幌在住会社員のショートショート置き場です。

コオロギ

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 僕には姉が一人いる。家族の僕が言うのもなんだが美人だ。小さい頃からモテたし、性格も良く自慢の姉だ。しかし、僕は昔から姉が怖かった。

  あれは僕が小学6年生、姉が中学2年生の頃だ。

 町内会のイベントでコオロギが4匹入った虫カゴをもらい、姉と一緒に面倒をみていた。姉はコオロギがいたく気に入ったらしく、毎日、暇さえあればコオロギを眺めていた。

「お姉ちゃん、本当にコオロギが好きだね。どこがそんなにいいの?」

「う~ん、歯応えかな?」

 カゴの中のコオロギは3匹しかいなかった。

 

 あれから10年。姉が実家に男を連れてきて両親に彼氏だと紹介した。美人の姉が連れてきた男は細身で色黒、顔の濃い男だった。何かに似ていると思ったが何に似ているのか思い出せない。男がトイレに立ったのを見計らって姉に聞いてみた。

「お姉ちゃん、あの人のどこが気に入ったの?」

「コオロギに似ているところかな?」

「コオロギ? あの虫のコオロギ?」

「そう、あのかわいいコオロギ」

 僕は姉の笑顔に一抹の不安を覚えた。

 

 しばらくして、姉からメールが届いた。彼氏と同居することになり、記念にパーティーをするのでこないかという誘いだった。僕はその後の様子が気になっていたので、姉の誘いに乗ることにした。

 

 姉たちが住むマンションのチャイムを鳴らすと、笑顔の姉が飛び出すように出てきた。腕を引っ張られリビングへと案内される。4人掛けの食卓テーブルには、すでに二人分の料理が用意されていた。

「彼氏はまだ帰ってきていないの?」

「自分はいいから、二人で食べてだって」

「本当に待たなくていいの?」

「私たちはいつも一緒だから」

  僕は嫌な予感がした。さっきから食べている姉が作った料理に入っているミンチ肉が何の肉なのか分からなかった。そして、飲み込むのが嫌になるほど臭くて不味かった。真実を知ることは怖かったが、僕は勇気を出して聞いてみた。

「お姉ちゃん、もしかして、この肉……」

「もしかして、分かった?」

「えっ、それじゃあ、やっぱり」

 僕は急な吐き気を覚え、トイレに駆け込んだ。いくら吐いても、吐き気は終わらなかった。なんてことだ。僕は人を食べてしまった。

 ガチャ。

「ただいま!」

「おかえり!」

 誰かが帰ってきたらしい。

「あれ? 弟君は?」

「トイレ」 

 僕はトイレから出てリビングに向かった。リビングには料理になったはずの姉の彼氏が立っていた。

「どういうこと? さっきの料理に彼氏が入っていたんじゃないの?」

 姉はお腹を抱えて大笑いし出した。

「はははっ。彼が料理に入っていたら、今、ここにるわけないでしょ?」 

「じゃあ、何が入っていたの?」

「コオロギとヤギの合いびき肉」

「コオロギとヤギ?」

「だってコオロギ好きなんだもん」

「俺は沖縄出身なんだけど、昔からヤギが好きなんだよ」

 コオロギは姉が、ヤギは彼氏が好きらしい。

「いつも一緒っていうのは?」

「これ」

 姉は首から下げていたハート型のロケットペンダントを開く。中には彼氏の写真が入っていた。

「もう驚かせないでよ。てっきり人を食べたかと思ったよ」

 姉と彼氏が顔を見合わ笑い出した。そして、姉は真面目な顔で語り出した。

「私と彼はかわいいものを食べるのが何よりも好きなの」

「そして、俺たちは君のことをかわいい弟だと思っている」

 その夜、僕は姉たちと一つになった。やっぱり姉は怖い人だった。

 

 

(この作品はフィクションであり、 実在する人物、団体等とは一切関係ありません)